深蒸し茶

2010年9月 茶況_No.262

平成22年9月23日

茶園では今週末から始まる秋冬番茶の摘採準備を進めています。雨不足や長引く残暑による高気温などの影響から、生育が例年に比べて4、5日程度遅れています。今年は収量もかなりの減収が予想されます。価格は300円台前半をめぐる攻防が主体となるもようで、ドリンク関連事業者のみが大量の数量確保に動くと見られています。指導機関では、秋冬番茶の摘採を秋整枝の予備作業と位置付け、茶樹の生育や気象状況を十分考慮して適期に適切な管理作業を行うように指導しています。また、買い手の注文に応じて必要量を生産する「受注生産」を徹底して、品質重視の生産に努めるよう呼び掛けています。需要、生産量ともに不透明感が漂う中、価格によっては生産を見合わせざるを得ない状況も視野に入れています。JA静岡経済連は今季の県内産二茶の荒茶生産量を前年比18%減と発表しました。3月末の凍霜害の影響を引きずり、一茶に続く二ケタ台の減産が確定的となりましたが、長引く残暑の影響による消費減もあって産地の茶況は意外に冷静に推移しています。

茶園の敷き草にするススキや笹などを刈るための場所を「茶草場」といいますが、良好な茶草場が維持されていることで知られる掛川市東山地区で、日本草地学会による現地調査がありました。東山には120haの茶畑に110haの茶草場があります。半自然草地としてキキョウ草やツリガネ草などの貴重な植物が確認されています。東山地区の生産者は荒茶の品質を落とさないために地域ぐるみで草を敷いて土づくりに励み、健康な茶樹から健康なお茶作りを徹底しています。茶草場での採草と茶園への敷草に年間作業時間の6割を割いているそうです。

産地問屋は消費地動向を探りながら、秋冬商戦に向けた販促に努めていますが、現在は小口補充中心の荷動きが続いています。農水省の発表によりますと、2009年度の1人当たりのお米の消費量は58.5kとピークだった1962年度の118.3kの半分以下まで落ち込んでいるそうです。最大の原因とされるのが食生活の変化です。朝食がパン食になったり、昼食が麺類や中華・洋食を取るケースが、ここ数十年で大幅に増加しているからです。お米を食べれば日本茶を飲みますが、中華・洋食だったりすると水・中国茶・コーヒー・紅茶等を飲用するケースが多くなりますので、日本人のコメ離れは、促お茶離れに繋がってしまいます。日本人の食生活の基本となる「お米」と「お茶」の和食文化の良さを再確認することを早急に進めていかないと、50年で半減した消費の先行きに一層の暗雲を感じます。当社ではこれから秋冬番茶の受け入れの準備を進めますが、下値の受注は少なく会社納品・ほうじ原料・青柳原料と一定の需要量の確保のみとなります。茶業関係者は皆、秋口からの需要増を期待しています。

消費地では朝晩が涼しくなり、家庭用の飲み茶の需要が少しづつ上向き初めていますが、日中はまだ暑い日が続きますので冷たい飲み物も選択されているようです。業界では「暑くて売れない」という言葉が挨拶のようになってしまいました。売れないのは暑さのせいだけではありません。食生活の変化、家族構成の変化、ペットボトルの普及など様々な要素が関係しています。これまで常識だったビジネスの前提条件がことごとく変わり始め、長年続けてきた商売の中身や方針を見直さねばならないという声はよく耳にします。「敵を知り、己を知り、勝つ方法を考える」と説く社長さんもいます。空前の消費不況で堅調な商売を続けていくには、自分のお店の魅力を地道に磨き上げて、それを強みにしていく以外に方法はなさそうです。

 

イエローカードからレッドカード

 

景気の先行き不透明感から消費は弱含みで推移し、小売業にとっては依然として厳しい環境が続いています。あいかわらず需給ギャップは大きく、デフレ圧力が続き、消費の本格回復への道のりは険しい予感がします。長引くデフレを経て価格に敏感となった消費者に割高さを感じさせない価格設定と、価値の高さを分かりやすく伝える販促策が求められています。

ユニクロのように突出した成長企業がある中で、上昇気流に乗っていた有力組の中にも成長が止まり、踊り場を迎えた企業も目立ち始めました。そして、勝ち組の間でさらなる生き残りを懸けた戦いの幕開けを予感させる動きが目立っています。こうした結果をもたらした原因として考えられるのがデフレへの対応です。生活防衛意識で消費者の低価格志向が、かつてないほど高まり、適切に対応したところは業績を伸ばし、対応が遅れたところは低迷を余儀なくされたのが現実です。高額商品を取り扱う大手百貨店は総崩れとなり、一方で節約志向で割安のスーパーのプライベートブランド(PB)やアウトレットが注目されました。

専門店でも対応によって明暗がはっきり分かれました。無印良品の「わけあって安い」では消費者は納得せず、ニトリの「お値段以上」という価格を上回る価値を求める傾向にあり、テレビ宣伝と相まってニトリは好業績をあげています。価値があやふやなリーズナブル感への信頼が崩れ、消費者は価値を持つ低価格の方を選択しています。競争は激化し、体力勝負の様相です。かねてからいわれている「勝ち組、負け組」ではなく、今後はあらゆる業種・業態で「勝ち残りか、退場か」という局面が生まれ、イエローカード2枚が終了してレッドカードを突きつけられてピッチから去っていく場面も考えられます。そこで、新たな市場を求めて海外に活路を求める動きが鮮明となって来ました。とりわけ成長市場であるアジア、そして13億人という莫大な人口を抱え成長著しい中国に熱い視線が注がれています。ユニクロは10年以内に中国に1000店舗を計画し、有名専門店チェーンもすでに進出、あるいは参入の機会をうかがっています。これから現地企業や海外勢を交えて新たな戦いが繰り広げられることになります。国内で絶対的な営業基盤を築くことを優先するのか、それともリスク覚悟で海外でさらなる一歩を踏み出す方が成功するのか、選択によっては、勝ち組の中でも優劣が生じることになりそうです。特に今回の日中関係悪化では大きなリスクを抱えることになります。

吉野家とすき屋のバトルに象徴されるように、外食産業の低価格化は止まらず、バイキングやうどんなどの新興勢力も台頭し、価格競争は激しさを増す一方です。少人数での接客や、賃金が低いアルバイトを活用したり、メニューの絞り込みをすることによって一つの食材を多くの料理で使えるようにしたりとコストを抑えることに各社懸命です。消費者の節約志向・低価格志向は根強く、外食離れが進み、家庭内調理の「内食化」や持ち帰り弁当や惣菜などの「中食化」がさらに強まっていますので、デパ地下や中小スーパーは惣菜売り場を充実して生き残りを図ります。消費者の動向を注視すること、あるいは消費者の動向をいち早くキャッチすることでピンチをチャンスに変えるための生き残り対策は急務となっています。「日本は長期的には付加価値の高い製品への転換をはかり、アジアなどの市場開拓を徹底的にやるしかない。付加価値の低いものの生産は海外へシフトせざるを得ない」(経団連会長)。円高により輸出が難しくなるだけでなく、デフレを後押しするからです。日本の産業は空洞化して、雇用問題の解決策が見つからないまま下降の一途をたどるこれから、経営者の真価が問われ、正念場をむかえました。