深蒸し茶

2010年9月 茶況_No.261

平成22年9月2日

連日の猛暑と雨不足のために指導機関では茶園の乾燥に注意を呼び掛けています。生産農家の方は、朝夕の涼しい時間帯に防除や灌水などの管理作業を進めます。日中の灌水作業は、作業する人も暑さで倒れそうですが、茶の木も葉面に付いた水が、太陽に熱せられて高温となり、日中の水掛けは、かえって葉に負担を強いることにもなります。ですから、灌水も日中の暑い時間は避けて夕方からの方が効果的のようです。1回の灌水量は1反当たり25~30トンの膨大な水量を必要とします。1週間に1回を目安に実施するように呼び掛けています。干ばつによる被害が発生しますと、来年の新茶の生育と生産量に大きく影響を及ぼすために早めの灌水を指導しています。春先の凍霜害で生育が遅れた茶園や幼木園、更新園などは特に注意が必要です。土壌水分の蒸発を防ぐために敷きワラなども効果的です。

産地問屋は秋需に向けた秋対策の戦略を練っています。今年は今までに記憶のない猛暑で、水出し煎茶関係の出荷は好調でしたが、全体の8月の出荷量は20%前後落ち込んでいます。そのため、「夏休み」を長期にしたり、金曜日も製造は休みにしている工場も見られます。仕事が少なくなった分、人件費削減を強化するわけですが、「技術やノウハウの蓄積・伝承が困難になった」とか「モチベーションが低下した」等の悩みも耳にします。夏日が長いためにドリンク関連は今までにない忙しさで、飲料メーカーは数量確保を急ぎ、昨年産の秋冬番茶の在庫は底を突いたようです。三番茶の下の価格の物や、一番茶に台切更新した茶園の台切茶で対応しているようですが、ドリンク需要に支えられる業界の体質が如実に表れています。静岡県では、リーフ茶の消費が縮小する中、静岡県の消費拡大や販売促進につながるアイディアやイメージアップ戦略を一般から公募しています。斬新な発想を募り、リーフ茶の消費拡大を目指します。消費者の嗜好が多様化してペットボトル飲料などに押され気味ですので、新たなアイディアを足掛かりに業界の閉塞感を打破したい狙いがあるようです。私の住む掛川市でも市民協働によるお茶のまちづくりを進めています。お茶が市民に密着し、生活文化として溶け込んだ「お茶のまち」への転換、さらには市民の誰もが掛川市のお茶や、お茶のまち掛川を自慢したくなる、誇りに思うまちを目指します。静岡県と掛川市は消費拡大のためのアイディアを募集し、プロアマを問わず誰でも応募できますので、リーフ茶需要につながる秘策をお持ちの方はぜひ応募してみてください。

消費地では店頭にて冷茶接待を続け、冷たくして飲む日本茶の良さを懸命にアピールしています。比較的涼しい午前中と夕方は来店客も期待できますが、暑い日中は商店街の人通りもまばらで、開店休業の状態だと、ぼやきの声も聞かれます。9月に入って店頭の飾り付けも秋の装いに変えたいのですが躊躇しているように感じられます。秋の本格的な需要期に向けて商品構成も見直しつつ「秋のお茶まつり」での販売増に期待します。内閣府がまとめた企業アンケートでは、7割以上の企業が価格競争の問題点を認めながらも「低価格路線はやめられない」と現在の価格競争の悩みが明らかになりました。今後3~5年で、商品やサービスの低価格化を「強化する」「引き続き実施する」と答えた企業が76%にのぼります。課題を聞いたところ「低価格だけでは売れない」が32%、「他社がさらに低価格にしてしまう」が30%、「数量が伸びたが利益に結びつかない」が20%と悩みながらも価格競争をやめられないのが現実のようです。

 

お客様目線・お茶の間目線

 

さまざまな価値観が受入られ、社会の多様化が進むにつれ、世の中をひとくくりに把握することがひじょうに難しくなっています。環境がめまぐるしく変化する今日、現実の生活に合致した製品やコミュニケーション戦略こそが消費者の心をとらえます。トレンドや時代の移り変わりに左右されない「人間の根源的な部分」に訴えることや、「お客様目線」よりもシビアな「お茶の間目線」を持つこと。「たしかにそうだよな」と思わせる現実感のあるアプローチが共感を呼び、数々の会社のプロデュースを手掛け、数々のヒット商品を生み出しているのがアート/クリエイティブディレクター佐藤可士和氏です。ユニクロや楽天グループの、プロデュース、国立新美術館のシンボルマーク、キリンビールのCM「親子の絆シリーズ」やドコモキッズケータイのデザイン、SMAPのアルバム、今治タオルの復活・・・。彼のデザインはそれまでの概念を覆す斬新さを持ちつつ、なぜ今までそれがなかったのか不思議に思うほど自然です。企業や組織の本質をつかみ、その存在を際立たせるコミュニケーション戦略とデザイン力で常に注目を集める存在になっています。

「企業の言葉にならない熱い思いを引き出し、社会に伝えていくための的確な方法を見つけ出し、具現化していくことが僕の主な仕事になります。常に相手の悩みを丁寧に拾い上げ、本質を見極め、課題を発見して解決していくことが強く求められています。『そもそも、これでいいのか?』という疑問を抱くことが原点です。つまり、過去の慣習や業界の常識といった前提を疑う気持がないと物事は変化していきません。しかし、誤解しないでいただきたいのは、一度疑ってみたがやはり正しかったということも十分あり得ることです。その前提が正しいかどうかを検討しないまま見過ごしているのが一番良くないということです。まずは『その前提は正しいか?』と常識を疑うことから始めてみましょう。

さまざまなビジネスで一般的に考えられているのは「お客様目線」です。お客様のためにと日々ビジネスでは当たり前のように言われていますが、企業が想定するお客様というのは自社の製品を買ってくれるであろうという高い期待感が前提になっているように思います。しかし、世間の人々の大半は、企業側が考えているよりずっとクールかつドライな視点で商品やブランドの価値を見定めています。僕が言う「お茶の間目線」とはこうした一般の生活者としての客観的な視点です。「お客様目線」の場合、どうしても企業の都合や業界内の常識から離れられず、実際の世間のニーズとは微妙にズレが生じているケースが多いのではないでしょうか。プライベートでの感覚は世間とずれていなくても、仕事になった途端、ついつい業界の慣習で考えてしまいがちな方も多いのではないでしょうか。たとえば飲料です。メーカー側からすると競合他社商品と大きく差別化したつもりの新作でも、消費者側から見れば微差でしかないことが多々あります。多機能家電も同様です。『果たして消費者は本当にこれだけの機能を求めているの?』。「お客様目線」と「お茶の間目線」、この似て非なる視点を理解するにはビジネスシーンにおいても、生活者のリアリティをどれだけ持ち続けられるかにかかっています。一番大切なことは「意識改革」です。既成概念から自分を開放して、いつも気持ちを自由にしておくことです。そして、創造的な考え方で、問題を解決していくという思考法が大切だと思います。」

佐藤可士和のクリエイティブシンキングより抜粋