深蒸し茶

2018年2月 茶況_No.336

平成30年2月5日

静岡県内主要100社を対象に実施したアンケート調査によりますと、景気の拡大傾向を実感する経営者が前年に比べて大幅に増えています。相場の格言に「戌年は笑い」と言われますが、戌(いぬ)年を迎えた2018年、国内景気は改善基調が続くと見られています。しかし、国内市場縮少、人手不足の深刻化、世界情勢不安など不安材料は山積みしています。設備投資は慎重で賃金も思ったほど上がっていない、個人消費も節約志向が根強く、実感なき回復が続いているとの声も聞かれます。しかし、様々な懸念は根強いものの停滞感からは一歩抜け出した形です。

茶園ではススキなどの茶草を刈り取り、乾燥させて茶園の畝間に敷く茶草場農法の作業が進んでいます。有機物の層ができることで土の保湿、保温力が高まり茶の木への栄養も豊富になります。土質はふかふかで根が張りやすく茶の木の樹勢や寿命が長くなります。手間は掛かりますが長年の作業の積み重ねで茶園に向いた土壌を作り上げています。近年は急須で淹れる上級茶の消費が減り続け、下級茶高・上級茶安の相場になっていますので茶農家の経営を圧迫しています。2017年の茶栽培面積は全国で2%減の4万2400ha、静岡県の1万7100ha(40%)、鹿児島県8430ha(20%)、三重県2950ha(7%)、京都府1570ha(4%)、福岡県1550ha(4%)と発表されました。

産地問屋は仕上と出荷作業を進めながら、新商品開発や新市場、新規顧客開拓に努めています。年末・年始の消費地への出荷は前年並みでしたが、産地間の荷動きは棒茶・粉茶の出物類と秋冬番茶の取引のみで一番茶の荷動きはほとんど見られません。各問屋とも過剰な在庫ではないと思いますが、まずは自分の手持ち在庫を減らして新茶を迎えたいとの本音からです。11月発表の家計調査による緑茶購入金額はリーフ茶323円、茶ドリンク452円、コーヒー564円、コーヒー飲料303円でした。リーフ茶は購入金額でコーヒーと茶ドリンクに及びません。茶ドリンクの452円を10%の業者でリーフ茶の323円を90%の業者で取り扱っているとすると、リーフ茶原料のみを扱っている業者の廃業が相次ぐのもうなずけます。

消費地では家庭用茶の販売に努め、商品企画や新茶の販売計画を練っています。例年にない冷え込みで足元が悪くなっていますので客足はなかなか伸びません。景気がいいと言われるのに消費の現場で目立つのは節約志向です。。企業業績好調なのに多くの人が給料の手取り賃金が増えたと感じていないからというのが専門家の一致した見方です。将来不安から消費に慎重な姿勢を変えるのは容易ではありません。「急須のない家が多くなった」との声が多いために県の組合が東京都で40代以上の女性221人にアンケート調査を実施しました。「急須がある」65%、「急須以外のポットはある」15%、「急須がない」20%でした。普段、急須を使わない理由は「洗うのが面倒」「ティーバッグで飲んでいる」などでした。消費地では茶専門店の閉店が相次いでいます。茶農家も一番茶安相場から反収が減り、他の農産物に切り換えたり高齢化から廃業する人が増えています。産地問屋も売上減少から廃業を選択する問屋が増えています。そのうち事態が好転するだろうとの希望的観測に立っていた事業モデルの崩壊です。人口減少下の産業構造の変化、若者層の新たなニーズにどう対応したらいいのか、業界の真価が問われます。

 

 

日本は乗り遅れた

 昨年の12月に放送されたNHKスペシャル「激変する世界ビジネス脱炭素革命>の衝撃」を見て私は強いショックを受けました。パリ協定をきっかけに二酸化炭素の排出量を実質ゼロにする「脱炭素社会」に向けて大きくかじを切った世界。アメリカの脱退表明にも関わらず、巨大企業は脱炭素を掲げ、マネーの流れも大きく変わり始めているのです。この動きを決定づけたのは、世界最大の二酸化炭素排出国、中国が環境大国を目指し始めたことにより世界のビジネス界は二酸化炭素の排出量を実質ゼロにする「脱炭素革命」に向けて大激変して、その動きは止まりません。そこには地球温暖化や異常気象という課題だけではなく、何より一獲千金の大きなビジネスチャンスがあると世界はその方向へ動いているのです。ニューヨーク・ウオール街の投資の流れは「脱石炭」に変わり、太陽光パネルや海上風力発電やEV車関連など環境対策企業に投資の流れが変わっています。11月にドイツ・ボンで開かれたCOP23にはパリ協定を脱退したはずのアメリカや脱炭素のリーダーを目指す中国など世界中のビジネスマンが集結しました。COP23に出向いた日本企業にNHKは密着取材し、「新産業革命」ともいわれるこのパラダイムシフトを目の当たりにした衝撃をルポしました。

ひと言でいうと「日本は乗り遅れた」ということです。そして、何より怖いのは日本人の多くがそのことにまだ気づいていないということです。昨年、アジア各国を外遊した安倍首相は「石炭・火力発電所」の計画、建設を経済協力として推し進めたために、世界に逆行する日本の動きに世界からバッシングを浴びました。日本はクレイジーな数の石炭火力発電所を途上国に輸出しているとの批判です。世界の温暖化対策ランキングで日本は58ケ国中下から2番目の57位です。下にあるのは産油国のサウジアラビアだけですが、そのサウジアラビアも新皇太子になって「脱炭素」に舵を切り始めました。米国の石油産業を支えた、ロックフェラー財団も石炭をはじめとする化石燃料からの撤退を宣言し、再生可能エネルギー関連に投資先をシフトしています。台湾では通勤にスクーターやオートバイが利用されていますが、現在売れているのは台湾製の電池式スクーターだそうです。座席の下に電池を2個備え、充電スタンドでは充電するのではなく電池を交換するのです。日本製のガソリン車やプラグ充電式の日本車は激減していきます。環境大国を目指す中国は大気汚染対策としてEV車にシフトしていますが、日本が得意とするHV車はエコカーと認めないと明言しています。そして、太陽光パネルを「一帯一路」の経済圏、中東の砂漠に何百万枚という規模で設置し始めました。脱化石燃料への流れは止まらないのが世界の潮流です。中国ではお金を持ち歩かないでタマゴ1個買うにもスマホ決済だそうです。ですから日本に来ると戸惑います。米アマゾンは、昨年シアトルにレジのない食品店「アマゾン・ゴー」を開店しました。人工知能(AI)を活用し客が商品をそのまま自分のバッグに入れ店外に出ると自動的に精算が終わる仕組みです。天井に設置したカメラなどで客が取り出した商品を読み取り、客が商品を棚に戻した場合も正確に精算できるそうです。

国や企業は先に起こり得る変化を捉えた成長戦略を常に描き続ける必要があります。停滞すると、気付けば乗り遅れている。今回のNHKスペシャルを見て、そのことを強く感じました。これまで先進国だと信じていた日本はトレンドに乗り遅れて、様々な分野で世界に遅れを取り始めていますが、気付いていません。日本企業は世界に誇れる技術を持っています。国民は勤勉で世界に誇れる道徳観念を持っています。どう変われば生き残ることができるのか、生き残りへの格闘が試されているのです。