深蒸し茶

2018年10月 茶況_No.342

平成30年10月22日

秋冬番茶の生産が終了した茶園では整枝などの来年の一番茶に向けた茶園管理が進められています。台風24号の影響で停電になったり断水した地域もあり秋冬番茶の製造が例年より3~4日遅れてのスタートとなりました。後半は横ばいが続き堅調相場で終了しました。飲料メーカーは国産最安値の秋冬番茶は欠かすことができない原料茶です。ですからドリンクを中心として買う気は強く、生産前に予約本数を各工場に連絡して数量の確保に動きます。茶草場農法を実践している茶農家は秋冬番茶終了後には茶園の畝間に敷くススキやササなどの山草を刈る作業に入ります。茶草場は山の急斜面が多く重労働となりますが、美味しいお茶造りには欠かせない作業です。

産地問屋は秋商戦に向けて仕上・出荷を進めていますが厳しい状況が続いています。この頃は涼しくなっても「売れない、売れない」という言葉がよく聞かれるようになりました。各地区で品評会と入札販売会が開催されていますが、どの入札結果も昨年を下回る落札成績です。静岡茶入札販売会も単価・落札率ともに前年を下回り、売上金額は前年比650万円少ない1437万円という結果でした。

 

第54回静岡県茶品評会入札会結果

部  門 出品点数 落 札 率 落札単価
鶴 印 4000円 82(86)点 43(64)% 4476(4621)円
亀 印 2000円 53(51)点 53(67)% 2336(2401)円

( )内は昨年の数字です

鶴印(4,000円)の落札率は前年比21%減の43%、亀印(2,000円)は前年比14%減の53%と前年を大きく割り込みました。7・8・9月と3ヶ月の売上低調から在庫過多傾向になり仕入に慎重になっていることが要因といった声も聞かれました。これから益々、一番茶安、二番茶は並、秋冬番茶高の傾向になると推測されますので、生産農家の経営は厳しく、飲料メーカー・量販店販売の産地問屋以外は経営難あるいは廃業、消費地小売店も売上減により閉店するお店が続出することになりそうです。早急に次の一手を打たないと非常事態ですが、残された期限は2~3年しかありません。

消費地では「蔵出しセール」を実施しています。8月は猛暑の影響による減、9月は台風の影響による減と良い話は聞かれません。苦戦は続きますが細やかな配慮で地元に愛されるお店を目指します。そのためには「なくては困るお店」地域密着の信頼してもらえるお店になる努力は欠かせません。近江商人の家訓「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方よしを社訓にしているお店もあります。流通の花形だった百貨店や総合スーパーが業績不振から大改革に取り組んでいます。ユニーHDはユニーの全株式をドンキホーテに売却しました。三越伊勢丹は閉店が相次いでいます。同じ衣料品販売でも社長が民間人初の月旅行をぶち上げたネット販売のZOZOは絶好調です。大塚家具は売却先を検討中ですが、同じ家具販売のニトリは売上高・利益ともに過去最高を記録しました。同じ業種でも明暗が分かれています。経営者の時代を読む確かな眼とその手腕が問われています。

 

 

一強多弱と荒廃する世界

 米国小売大手「シアーズ」が経営破綻しました。負債額は1兆1000億円と見られ米国小売業の破産としては過去最大となる見込みです。20世紀の大消費社会の波に乗って全米に店舗を広げ、1980年代まで全米最大の小売業でした。しかし急成長するディスカウントストアの「ウオルマート」や大型専門店の「ホームデポ」などの攻勢に押されて苦戦し、最近はアマゾンなどのネット販売にも顧客を奪われ、万策つきて破綻へ追い込まれました。消費者の変化に対応しなかった、動向を無視したツケがとどめをさし自滅した形です。

日本では名古屋の老舗百貨店「丸栄」が6月に75年の歴史に幕を下ろしました。三越伊勢丹は2020年までに相模原店・府中店・新潟店の三店舗を閉店すると発表しました。「アピタ」「ピアゴ」などの店名でスーパーを展開するユニーはディスカウント大手ドンキホーテの傘下に入ることで合意しました。ユニーHDはスーパー事業をグループから切り離しコンビニ事業のファミリーマートに経営資源を集中させる方向で調整しています。百貨店も総合スーパーも、かっては食品や日用品や衣類などの幅広い商品を取り揃えることで集客して成長してきました。しかし近年はドンキホーテなどのディスカウント店やユニクロなどの大型専門店アマゾンなどのネット通販などに押されて苦境が続いていました。そんな状況を打破しようと「イオン」は抜本改革に動いています。商品分野ごとに専門会社を設立し商品企画力を高めて大型専門店と真っ向に勝負する考えです。そのために「強い食」と「強い専門」を作り、その集合体を作り上げるのがねらいです。時代の変化、世の中の変化に合わせて商品も業態も変えていくとの考え方です。

現代社会はネットとリアルの世界が融合することで便利になっているのは確かです。米国の「ウーバー」はスマホで近くにいる自家用車をタクシー代わりに呼べるシステムです。自家用車の運転手は空いている時間に好きな時間だけ働いてちょっとした副収入を得ることができます。アプリを利用して自分の車や部屋が空いている時にレンタカーや民泊のように貸し出したり自分の駐車スペースを貸し出したりするサービスもあります。スマホを使ったアイデア次第で収入が増えている人もいます。しかし、急速に広がるIT企業のサービスは危うさもあります。ユーザーの膨大なデータが大手ネット企業に一極集中するからです。蓄積された個人データは関連性をAIで分析され、それを基に個人の興味や関心に合わせたお薦め商品が自動的に表示されるサービスです。ネットを利用するうちに逆にネット企業から利用されているわけです。ネットで古い仕組みが刷新されて何やら充実した日々を送っているような気分ですが、一部の人達が莫大な利益を得ています。現在の世界の資産は上位8人と下位36億人の資産が同じです。富める者はさらに富み、格差はますます広がっているのです。一極集中の先にある一番の問題は勝者が限られるという点です。そして対応できないなら死ぬしかないのです。アマゾンの普及により百貨店やスーパーは淘汰され、昔ながらの商店は4割強も閉店しました。理由は実店舗はショールーム代わりに品物を確認するだけ、購入は安く買えるネット通販で購入する「ショールーミング」なる消費行動が増えているからです。(ウェブルーミングはインターネットで商品を調べてから実店舗で購入する消費行動です。)

一極集中による一強多弱と効率優先の動きがこのまま進み、ネット社会に浸かって精神が荒廃していきますと、文化やコミュニティーは崩壊していきます。この先、何らかの工夫が必要なところまで来ていると感じるのは私だけでしょうか。