深蒸し茶

2017年2月 茶況_No.327

平成29年1月26日

新しい年を迎えた茶園は、厳しい寒さに耐えながら良好な状態を保っています。茶園の畝間に施された敷草は防寒対策や乾燥対策に大変効果があります。厳冬期に入り茶の木は休眠していますが、眠りが深く長いほど活力を養う好条件となり、新茶期に目覚めた時においしいお茶になります。生産者は敷草など、茶園の防寒、乾燥対策の管理作業を進めています。そして、茶の木を寒さや乾燥から守るように管理し、我が子のように慈しみ育てています。

産地問屋は生産者・消費地と情報交換しながら、今年の状況と商品計画や仕入計画を話し合います。現在の厳しい状況に新商品開発と新需要開拓への取り組みは必須との話題も出ます。青年団は小学校や大学などで「お茶の入れ方教室」を展開していますが好評です。湯の温度や抽出時間、玉露・煎茶・ほうじ茶など茶種ごとの入れ方の違いを説明し、家庭でも本物のお茶の風味を楽しんでいただけるように丁寧に説明します。家庭調査による10月の緑茶購入量は14%減の53gと2000年以降で最も少なかったと発表されました。リーフ茶の支出金額は5%減の307円、ペットボトルの支出金額は9%増の559円とドリンクに使う金額の方が多くなっています。静岡茶市場で開催された1月の入札会は前年同月比35%増の2500万円ですが、売れるのは荒茶700円以下の二番茶と秋冬番茶、棒茶・粉茶の出物類で飲料原料向けがほとんどです。ですから、二番茶以降の安い価格の飲料原料は品薄が続いています。

消費地では、贈答品も一段落して家庭用茶の販売に努めていますが、厳しい寒さが続き来店客数も減少気味です。加えて所得や社会保障の先行き不安から節約志向は一層高まっています。百貨店もスーパーも売上高が減少しています。消費低迷の理由は「将来不安」を挙げる声が最も多く、将来への不安を強く持つ家計の姿が浮かびます。政府は、楽しむ金曜「プレミアムフライデー」の定着に官民を挙げて取り組みを進める構えです。月末の金曜日に仕事を早く切り上げ、買物や外食などを楽しんでもらう消費喚起の試みですが、現在置かれている状況を勘違いし、把握していないお役人の発想らしいと強く感じます。週末に時間が取れれば、家族でゆっくり過ごしたい、楽しむならファミリーで楽しみたい、将来不安を考えれば、楽しんで買い物や食事などをする余裕はないというのが国民の本音ではないでしょうか。なぜ、お金を使わないのか理由を聞いたところ 1、日本の将来への不安 2、景況感の停滞 3、賃金が伸びていない、4、増税で家計負担が増えた 5、食料品などの値上がり、など先行きの不透明さが払拭できずに不安感が先行し、消費意欲に結びつかない様子がうかがえます。百貨店各社は地方店の閉鎖・縮小を加速させています。外食業界では 24時間営業をやめる動きが広がっています。深夜客の減少、人手不足の影響もありますが、今問題になっている労働環境改善に配慮した措置です。不透明で厳しい状況は続きますが、変化をチャンスと捉え、消費者の需要を喚起する価格づくり、顧客の期待を超える価値づくり、地域に欠かせない最良の店舗づくりを目指して頑張っているお店もあります。

 

 

 

遠山(えんざん)の目付(めつけ)

2017年の幕開けです。昔から格言に申酉(さるとり)騒ぐと言われていますが、世の中がたいへん騒々しくなってきました。米国のトランプ新大統領は「米国第一主義」を主軸にTPPを離脱表明しました。EU離脱を決め、強硬な離脱の姿勢を明確にした英国は、米国と同様に自国優先の立場を確立して手続きを進めます。世界が、どう動くのか変わるのか、その先行きに世界が注目しています。私達には、その先行きを読む確かな目が必要です。小池東京都知事は、仕事始めに「俯瞰(ふかん)」の言葉を新年の挨拶で述べました。俯瞰とは、一人一人が鳥の目を持って、高い所から広い範囲を眺め、どのようにより良い東京を作り上げていくのか、考え抜いていただきたいとの思いのようです。今年は東京オリンピックの費用の負担や豊洲市場への移転問題など課題は山積みで、小池都知事の行政手腕が問われる1年となります。

宮本武蔵の著した兵法書「五輪書」(ごりんのしょ)の教えに「遠山の目付」と「観の目強く、見の目弱く」とあります。遠山の目付とは、目は相手の顔につけ、相手の顔を見るが、一部分に視線を固定させないで全体を視野に入れるようにすること。例えば植木を見たとき、一枚の葉のみを見ては全体が見えなくなるが、全体に目をつければ一枚一枚の葉もよく見えるようになるとの教えです。遠い山の頂を見るように全体を見ることによって裾野までもが視野に入るような目の付け方です。もう一つの教え「観の目強く、見の目弱く」とは観の眼、すなわち心眼をもって常に大極を見よということであり、そして見の眼、肉眼で細かいところをよく見よという剣の極意です。敵の技や動きを見るのは「見の眼」ですが、敵の心の動きを見破るのは心の眼「観の眼」であると武蔵は教えています。命のやりとりであった昔の真剣勝負では、眼の動き心の動きは最も重要なものでした。

茶業界は今大きな変化の渦中にあります。お茶の飲み方が変化し、リーフを急須で入れる家庭が少なくなり、ペットボトルが主流になりつつあります。以前は嘘だと思った急須のない家庭が増えてきています。流通形態も変わり商店街の小売店から郊外のスーパーや量販店での販売が多くなってきました。静岡茶市場で開催される入札販売会も1000円以下の荒茶や出物を求める問屋が多く、2000円以上の一番茶の取引は少数に止まっています。量販店業者とドリンク関連業者は元気がよく、昔ながらの販売を継続している茶問屋は元気がありません。一方、茶園に目を移しますと、耕作放棄され伸び放題になった茶の木が目立つようになりました。取引価格が下がり、高齢化も重なって引退者に歯止めがかからないのが現状です。先行き不透明な時代の変化への対応や、個人消費拡大への取り組みも正念場を迎えています。これからの茶業界がどのように変化し、形を変えて、どの方向に向かっていくのか…。難しい選択を迫られています。時代の変化への対応や、新たな領域への挑戦も必要です。多様化する顧客や地域のニーズに応えていくためには、鳥の目を持って広い範囲を眺め、適切な判断が求められます。「遠山の目付」、「観の目強く、見の目弱く」の教えのように、一部にのみ視線を固定させないで、全体を見るようにすること、細いところをよく見るが常に大極を忘れないようにすること。宮本武蔵の「遠山の目付」と「観の目強く、見の目弱く」の教えを肝に銘ずる年になりそうです。