深蒸し茶

2016年12月 茶況_No.326

平成28年12月6日

茶園ではこれからの本格的な冬に備えて、敷草などの茶園管理に努める生産者の姿が見られます。山草を茶園に敷くことは雑草が生えず、保湿・保温と肥料にも役立ちますので美味しいお茶づくりには欠かせない作業です。JA主催の勉強会も開催されています。ブランドとしての高付加価値化や他分野への販路拡大の検討、煎茶から碾茶への転換方法、ドローンを使った農薬散布などの紹介もあります。

政府の農業ワーキンググループはJA全農に、今後1年以内に組織や事業の刷新を求める提言をまとめました。肥料・農薬などの生産資材を農家に販売する事業を大幅に縮小し、農家が生産した農産物の販売体制の強化を求めました。農産物は手数料を取る委託販売を見直し、JA全農が全量を買い取って在庫を抱える形にし、高い価格で販売することを促しています。農家以外の住民が貯金や共済などのサービスを受ける「准組合員」の利用規制についても見直すよう求めています。政府が経営への過剰な介入や非現実的な施策を強制することは、現場の実情を知らないお役人の机上の空論としか私には思えません。

産地問屋は年末商戦に向けて、仕上、発送と追い込みをかけています。11月から若干上向き始めていますので、お歳暮商戦の結果に期待を掛けます。産地間の荷動きは出物類を除いて、ほとんど見られませんが、飲料原料向けの低価格のお茶は動いているようです。

消費地ではお歳暮商戦がピークを迎えています。お店に来ていただいたお客様に心を込めた接客を心がけていますが、品物を選ぶ目が非常に厳しくなっていることを感じます。わざわざお店に来ていただいたお客様は、「あのお店のあの商品」と価値とブランドを理解して買っていますので、お店は満足度の高い価値観を提供する必要があります。

インターネットやスマートフォンの普及により、無店舗ネット通販が拡大し、「有店舗大閉鎖時代」ともいうべき大波が小売業界に押し寄せています。地方店の不振と衣料品の不振により百貨店業界は深刻です。特に三越伊勢丹の苦戦が鮮明となりました。特に地方店の不振は深刻です。千葉店・多摩センター店は閉鎖が決まり、広島・松山・松戸・府中店は閉鎖を検討中です。逆に家具チェーン大手のニトリ、ディスカウントストアのドン・キホーテは縮小したり撤退したりした百貨店やショッピングセンターの売り場跡などを活用し、今後も効率的な出店を進める考えです。好立地にある百貨店やショッピングセンターなどが業績不振で相次いで売り場を縮小したり店舗を閉めたりしていることに着目し、次の一手を打ち、変化する小売業に対応します。対応を間違えて大きな痛手を負ったのは三陽商会です。バーバリーとのライセンス契約が終了してからは、売上で35%減、51億円の黒字から81億円の赤字と大苦戦しています。バーバリーとのライセンスを失ったことは、想像以上に負のインパクトがあり、当初の読みが甘かったと言わざるをえません。三越伊勢丹、三陽商会のように体力を消耗し、息切れが聞こえてくる企業とニトリ、ドン・キホーテのように他社が撤退した後に、都市部を中心に効率的な出店をして客層拡大を狙うお店の差はどこにあるのでしょうか・・・。次の一手、戦略の適否としかいいようがありません。次の一手、読みを間違えれば奈落の底です。すべての条件を、もう一度ゼロから見直して気を引き締めなおす必要がありそうです。

 

 

 

時 代 の 節 目

 米国の大統領選挙は、大方の予想に反してトランプ氏が当選しました。日米ともに民主党のクリントン氏に好意的な報道が多かったことから、日本国内でもショックは大きかったようです。「トランプは嫌いだが、クリントンはもっと嫌いだ」の米国民の言葉が表すように、米国の国民は何に怒りを感じているのでしょうか。背景には米国の格差問題があります。ウオール街や富裕層など国民のわずか1%からの献金が法律を作り政治を動かしている現実があります。8年前オバマ大統領が格差の拡大で疲弊した社会を変えてくれると期待しましたが、「チェンジ」は幻想で30年も続く金権政治は変わりませんでした。チェンジへの失望がトランプ氏を押し上げ、きれいごとを言わない姿が自分たちに近いと支持を集めました。そして、強いアメリカを取り戻すと言ったトランプ氏に期待したのです。アメリカは建国以来の大きな時代の節目を迎えたことは確かでしょう。トランプ大統領就任が日本経済にとっても大きな転換点になり得ることは確かです。トランプ大統領登場は、こうした世界経済の雰囲気を大きく変えようとしています。

もう一つの世界的な出来事は国民投票による英国のEU離脱です。EUとの離脱交渉を進める中で英国経済は不確実性に見舞われることになります。英国には1000社近い日系企業が欧州拠点として活動を行っています。多くの日本企業はEU加盟国という理由で英国ロンドンに支社を置いていましたが、EU諸国との関係が弱まり、移動の自由もなく、関税もかかるとなると、英国から撤退する企業は増えるでしょう。

日本国内に目を向けると、天皇陛下が退位のご意向をにじませたお気持ち表明がテレビで放映されました。政府が設けた有識者会議は、「自由意思による退位容認は天皇制度の存立を危うくする」との反対意見に対し、「高齢化社会を迎えた今日、終身在位制は広範囲の公務遂行とは両立しがたい」と、皇室典範の改正により、退位を恒久的な制度にする必要があるとの意見も出され、年明けにも論点整理を公表する方向で調整中です。高齢化社会には厳しい「年金改革法案」が賛成多数で可決されます。公的年金の支給額を引き下げる新しいルールです。消費低迷の理由は「将来不安」を挙げる声が最も多く、将来への不安を強く持つ家計の姿が浮かぶため、消費者はますますお金を使わなくなるのではないでしょうか。将来不安から消費者の節約志向が強まり、上向くきっかけがなかなかつかめないのが現実です。中国経済が失速する懸念も、世界経済の大きな不安の種です。

私たちが節目の到来に気付きにくい理由は色々考えられます。自分にとって不都合な出来事が起きても、きっと大したことはないはずだと都合よく理解してしまう心理的な特性。もちろん普段と違うシグナルを感知したからといって、それが真に警戒すべきものの前兆を捉えているとは限りません。だから、私たちは「稀なことは、まず起きない」という常識によってフィルターを掛け、負荷を軽減させて暮らしています。これでは目先のことに集中しているうちに、時代に追い越されていたということも起こりうるでしょう。「時代の節目」というものは、その規模が大きい場合、渦中にいる者には分かりづらいものです。とりわけ、世が変わり始めた最初の段階では、なかなか気づかないものです。しかし、今が本格的に「時代の節目」ではないかと強く感じています。私たちは、次の時代に、もう投げ込まれていると覚悟すべきではないでしょうか。そして新時代と真っ正面から向き合うことが、今求められているのではないでしょうか。