深蒸し茶

2016年7月 茶況_No.322

平成28年7月22日

猛暑が続く茶園では、朝夕の涼しい時間帯にカイガラムシの防除や施肥などの管理作業が続けられています。ペットボトル原料の需要を受け、一部の工場では台切り茶の製造も始まりました。二番茶で手当て不足のドリンク業者は台切り茶の予約を入れて数量確保に懸命です。JGAPの有無や製造方法などの要望に応えてくれる茶工場を優先して予約します。近年は一茶後半から二茶・秋冬番茶と大量に原料調達する大手ドリンクメーカーは相場形成に大きな影響力を持っています。ドリンク需要が伸びているのに相場が下がるのは、いかに「茶葉」を急須で入れて飲む機会が減ったかを示しています。前年は相場が底割れし、生産中断が相次いで大幅減産になった二番茶でしたが、今年はドリンクメーカーなど買手が必要量の確保を最優先したために堅調相場で終了しました。メーカーによっては手当て不足のところもあったようです。昨年のように採算割れする相場が続くようでは、生産意欲減退が懸念されますので、今年は静岡茶再興のための試金石となりそうです。

静岡茶再興を支援する補助事業もスタートしました。新植・改植は1反当たり12万円、

地表15センチ以下の台切り更新は7万円、他の作物への転換のための抜根には5万円の補助など、利用希望者を県内各JA が受け付け始めました。この機会に新植・改植を実施して、茶の木の若返りを計画的に進めてみてはいかがでしょうか。他産地との差別化をする意味でも「若木の力のある茶」の再現は絶対に必要です。

産地問屋は仕上、発送作業を進めていますが、出荷状況は猛暑の影響でしょうか、前年比20~30%減と極端に悪い状況が続きます。現在の状況が秋口以降まで続くようですと資金繰りにも影響が出そうな、不透明な暗い雲行きです。緑茶ドリンクの普及で冷たいお茶をゴクゴク飲む人が増えたこともあり「水出し緑茶」を業界一丸で提案しています。季節商品ではなく、定番商品として売り場確保を目指します。お茶を水で入れるという新スタイルを暮らしに取り入れてもらえれば、年間を通して消費拡大につながると期待します。

中元作戦が一段落した消費地では「水出し緑茶」の販売に力を入れます。「水出し緑茶」は水で浸出しますが、「冷茶」は湯で入れた茶を急冷します。店頭で説明してお客様に合った提案をしていきます。一人のお客様を見つめ、プロとして何を勧めるか、何を伝えるかを考えて言葉にします。ある繁盛店の社長さんは「あなたの今日の仕事は、たった一人でよいから、この店へ買いにきてよかったと満足してくださるお客様を作ることです。」とおっしゃいました。お客様が困っていることに対応することが仕事であり、お客様の「ありがとう」が売り上げを生み出すと教えてくれました。悩み苦しんだ経験の後につかんだ商いの原則に触れた気がします

アベノミクスを加速させると主張してきた安倍首相は秋には大胆で力のある経済対策を行うと述べましたが、景気の底上げにつながるかは見通せません。企業の国内での設備投資は伸び悩み、物価高と税金や保険料の負担増に賃上げが追いつかず、個人消費も低迷したままです。公共事業を増やそうにも建設業界は人手不足。高齢者などを対象にした給付金などの案も出ていますが消費を上向かせることができるかは不透明な経済情勢です。

 

 

 

五十手、百手先にある夢

 20年ほど前、将棋の羽生善治氏が名人など6つのタイトルを取った頃、後に永世棋聖となった米長邦雄氏が、こんな話をしました。「我々ベテランは、なぜ若手の強豪に勝てないのか。年配棋士は得意の戦型が忘れられない。もうその戦型は通用しなくなっているのに…。」

セブン&アイホールディングスに長年君臨したカリスマ鈴木敏文CEOが退任しました。セブンイレブンを育て、セブン&アイを日本一の流通グループに押し上げた人です。

1970年にコンビニを日本に持ち込み、80年代に全店にPOSを導入してPOSデータを基に売れ筋予測をする独自の仕組みを作り出し、2000年代に入ると銀行業に参入し、07年には常識を覆すプライベートブランド「セブンプレミアム」を成功させ、実績において敵う者など社内にはいないし、業界にもいません。次々と繰り出す一手は「夢」と共に語られたから、社員・取引先・投資家は見えざる世界を手の内に感じさせられ、さらに成長しました。しかし、徹底一枚岩型の規律を求めるリーダーに、馴染めない人は、この組織に入らないし居つきませんでした。社長解任の人事案を取締役会に諮ったものの、否決され創業家との確執が表面化、お家騒動として報道されCEO退任に追い込まれました。

アマゾン・楽天などネット企業が台頭し、広い商圏のGMS(総合スーパー)や百貨店は人口減と大型専門店やネット販売の台頭の前に力を失い時代に遅れ続けました。コンビニが小商圏を対象にして、買物難民の高齢層と若者の単身世帯に便利さと質を訴求して成功したのは確かです。しかし、寒流と暖流が入り交じるような時代のうねりの中で、表向きの業績は好調でも将来への夢を見せられなくなってきたことが、人々に依存への恐怖を抱かせ始め、離反となって挫折しました。

「時代の変化に合わせて事業内容をフレキシブルに組み替えることで企業価値を高めよ」という言葉はよく耳にしますが、言うは易く行うは難しです。日本中の注目を集めたシャープは台湾メーカーの軍門に降り、経営危機に陥った東芝は家電や医療機器といった事業を売却し、半導体や社会インフラ、エネルギーなどの事業に集中して再建を目指す方向です。19世紀に創業したフィンランドのノキアは紙パルプからパソコン、テレビなどの多角経営で成長してきましたが1990年代の経営危機で携帯電話事業に経営資源を集中し、その結果1998年から2011年まで携帯電話の販売シェアでトップに君臨します。しかし、韓国勢や米アップルとの競争激化から採算が悪化すると2013年に携帯電話事業を米マイクロソフトに売却を決め、現在は通信ネットワーク事業のリーディングカンパニーとなっています。創業の事業だから、自分が育ってきた事業だからといった理由で収益が悪化した事業からの撤退や改革を、過去の成功の記憶からためらう経営者も多くいます。事業を立て直すことが必要な時もありますが、広い視野から戦略的に判断して、現在の戦型を変える一手が必要なのです。シャープ、東芝、三菱自動車のようにならないために…。とにかく不安を取り除き次の夢を語れるような日が来ない限り日本は再浮上しません。そして、次世代の経営者が能力を高めないと企業は立ち直れないのではないでしょうか。