深蒸し茶

2010年4月 茶況_No.258

平成22年4月12日

3月30日朝の厳しい冷え込みにより発生した茶の凍霜害は県内の茶園に広範囲にわたって影響をもたらし、県内19,000haの茶畑のうち約50%が低温傷害に見舞われました。特に早生品種と生育の早い地域は影響が深刻化しています。県は被害状況の調査とともに、農家への技術指導や経済的支援に乗り出しました。もう少し様子を見ないと、どのように回復するのか予測がつかない状況です。

御殿場市に大雪を降らせた30日の朝は強い寒気が日本の上空に流れたのと、29日夜から晴れて放射冷却現象が強まったために県内全域で気温を下げ、最低気温は-1°~-4°となるなど平年を6°前後下回りました。新芽は生育が進むに従って寒さに弱くなります。このため早生品種や早場所産地は葉が1、2枚開く程度まで育っていましたので影響は大きくなりました。昭和54年の4月18日に発生した凍霜害と同じ位の影響ではないでしょうか。近年は暖冬の影響で萌芽が早くなったところへ3月末の寒の戻りで寒さの影響を受けるパターンが常態化しています。秋整枝を遅くする、春整枝にする、晩生品種を導入する、など凍霜害のリスクを分散する対策を考えないと、現在の栽培方法ではリスクが大きすぎるとの声も出ています。

産地問屋は凍霜害の影響による新茶取引の遅れと上級茶の減産を予想して仕入計画を練り直しています。静岡茶市場は鹿児島産のお茶も取り扱う関係から4月19日に初取引の日が決定しましたが、掛川茶市場は4月14日に茶園の生育状況を最終確認して後、初取引の日を決定します。4月22日~26日の間のいずれかの日になります。

今年の新茶の展開は、例年より5日程度遅れて、4月25日頃より少量づつ始まり、4月中の生産数量は例年の半分以下になると予想されます。したがって5月2日八十八夜までの上級茶は強相場で推移する展開になると予想されます。したがって茶問屋としまして品質の維持と数量の確保が最重要課題になります。また新茶シーズンの本格的な到来を前に緑茶の表示研修会が開催され、適正表示の重要性を再確認しました。

内閣府は3月の景気ウォッチャー調査を4ヶ月連続で改善したと発表し、基調判断も「景気は厳しいながらも、持ち直しの動きがみられ、心理面に明るさが見えてきている」と2ヶ月連続で引き上げました。しかし、私たちの目から見える景気は、売上不振にあえぎ、出口の見えない不況の深刻さは相変わらず続いています。新党の結成や離脱の動きを含めて政局は波乱へ進み、予算は成立しましたが経済の先行きは思わしくありません。多くの経営者が躊躇している間に、アジア諸国の経済は一段と活気づき、韓国や中国との技術や品質などの格差も急速に縮小してきています。あらゆる分野で日本の優位を支えてきた「人の力」が弱まり、本格的な回復には、まだまだ時間が掛かるというのが多くの経営者の本音ではないでしょうか。新年度初日の企業の入社式でも危機感を訴える言葉が多く聞かれました。「筋肉質の体質になるよう努めなければ、生き残りすら難しくなる」サントリー佐治社長、「今期の売上高はピーク時より30%減る予想で、みじめな状況。自動車業界は食うか食われるかの戦いだ」スズキ鈴木修社長。

波乱含みの今年の新茶取引が25日頃よりスタートします。ものづくり、現場主義、チャレンジ精神を忘れずに精一杯努めますので、お気付きの点はなんなりとお申し付けください。素早い対応に努め、お役に立てるようにがんばります。

 

日本を今一度、せんたくいたし申候

 

坂本龍馬33年の生涯を三菱財閥の創始者である岩崎弥太郎の視点で描いたNHK大河ドラマ「龍馬伝」がたいへんな人気です。歌手で俳優の福山雅治が演じる龍馬は軽やかで可愛さがあり、新たな龍馬ファンを増やしています。私の娘も二人の孫も誠実で茶目っ気たっぷりの龍馬(福山雅治)の大ファンです。土佐藩高知城下に下士・坂本家の次男として生まれた龍馬は自由で合理的な町人気質に触れながら育ちました。物事に公平で好奇心旺盛な性格と人を説得する力や周りの人々への気遣いなどに溢れていて、とても魅力的な人物であったようです。

「日本を今一度、せんたくいたし申候」という文言で有名な姉の乙女に宛てた手紙には幕府の腐敗を嘆き、理想の国家を創ろうとした龍馬の高い志がしたためられています。一方、最近の政界には龍馬を目標として掲げる政治家が数多く目立ちます。世の中が不安定になればなるほど、特に龍馬は好まれるようです。土佐を脱藩して薩長同盟と倒幕を実現させた英雄に自らを重ね合わせているようです。自民党を離れた人、立て直しを図る人、新党を立ち上げた人。夏の参院選を前に混迷する政治情勢を打破したいと自分と龍馬を重ね合わせています。中には「二人を結びつける坂本龍馬になれれば最高だ」と公言する政治家がいたり、また「私は坂本龍馬が大好きなんで、自民党の古い方々を薩長同盟になぞられても極めて不快」と訴える政治家もいます。自民党が昨年の総選挙で惨敗した背景には、新しい時代のニーズに応じきれていなかった、国民の目から見て政治のレベルが低すぎた、民主党に期待した、の三つがあります。期待した民主党も「政権交代」という言葉だけで政権を奪取しましたが選挙のための政策を追求しているために政策の軸が見えないとの声が聞かれます。選挙には人気投票的な要素があるためにどうしても甘い話になりがちです。大きな方向性を示し、それに責任を持つ。私心を捨てて日本の現在の危機を乗り越える。そんな政治主導に国民は期待しているのです。国民の生活、経済状況、世界における日本の地位、社会秩序。政治にかかわるあらゆるものが今、質的に低下し日本がどんどん落っこちていく感じがします。

土佐に限界を感じで脱藩した龍馬は勝海舟の弟子となり開国論者となって明治維新を進める大きな原動力となります。現在の混迷する政治情勢を打破して、苦しくなった国の台所の建て直しはできるのでしょうか。車・電気・繊維などの大手企業は成長が見込める東南アジアの新興国に製造・販売の拠点をシフトしています。国内の中小企業の仕事量は減り続け、不景気感は払拭できないままです。しかし、日本はもう駄目かといえばそうではありません。アジア諸国や新興国にとって日本は様々な魅力に満ちて尊敬される要素を数多く持っています。自然の美しさや清潔で味わい深い食文化、人情や誠実さ、また治安の良さ、欧米文化を融合した民族文化の成熟、知識水準の高さや勤勉さです。今切実に求められているのは、これらの長所にもっと自信を持ち、アジアにとって魅力あるビジョンを立て、そこへ引っ張っていくリーダーシップです。危機において特に発揮されるべきは「政治の力」。そうした流れを変えて、日本の優位を確かなものとするために今こそ強い変革の意志が求められているのです。

歴史に「もしも」はあり得ませんが「龍馬が生きていたら、どんな手を打ち、日本はどうなっていたんだろう」と思わずにはいられません。