深蒸し茶

2009年10月 茶況_No.252

平成21年10月1日

茶園では、今年最後の製造となる秋冬番茶の摘採を進めています。8月から少雨が続いている影響で芽伸びが思ったように進んでいないため、生産量は3割減くらいになるのではとの声も聞かれます。燃料費が高騰した昨年に比べ相場は100円ほど安く、350~320円で推移しています。買い手は県内の大手茶商数十社に限られ、ドリンク需要が主体になっています。指導機関は生産要請に応じた受注生産を呼びかけていますので、受注数量を製造し終えてすでに終了した工場も出ています。緑茶飲料の原料原産地名の表示が10月1日から義務化されますので、ドリンク関連業者は国産茶葉にシフトする傾向にあります。一定量の需要は見込まれるものの、需要の不透明感を指摘する声もあります。一番茶から最終の秋冬番茶まですべて弱気配で進み、今年のお茶の製造はすべて終了します。

産地問屋は秋需に向けて新企画や販促に努めています。ライフスタイルの変化、食の変化、家族構成の変化などから家庭用の需要が落ち込む中、独自の商品開発、販売企画を進めて生き残る道を模索します。生産者と連携して新商品の開発を進める農商工連携の事業を積極的に進めている問屋もあります。長年培った知識や経験を生かして新需要を生む新製品の開発が不可欠となっていますので、真剣な取り組み姿勢が伝わってきます。

消費地ではお茶の本格的な消費シーズンを迎え、企画商品の売り込みをはかっていますが、荷動きは依然として鈍く9月の売り上げは最悪の状態です。家計調査によりますと、今年上半期(1~6月)の1世帯当たりの緑茶購入量は前年比4.6%減と、過去最低であると発表されました。緑茶購入量はここ数年下降線をたどり、長引く消費不振に業界からは悲鳴が上がっています。夏場の飲み物として定着した「水出し煎茶」ですが、口にするものすべて冷蔵庫から取り出す現在の生活スタイルにとって、「冷茶」は生活に定着した飲み物になっています。したがって、夏場だけでなく年間の飲み物として販売に力を入れ好成績をあげているお店もあります。ライフスタイルが大きく変化するにつれて新しい喫茶スタイルも求められています。急須で、あるいは熱いお湯で淹れることにとらわれないなど、その取り組み姿勢は前向きです。「お茶が売れないとこぼす割に貪欲にお茶を売ろうとする姿勢に欠ける。あらゆる機会をとらえてお茶を売り込むことが大切」と指摘する声に応えたものです。

キリンとサントリーが経営統合の交渉を進めて話題になりましたが、国内市場は人口減少に伴って先行きが厳しいのは当然です。内需型ビジネスだけでは企業としての成長の余地は限られてしまうことから、海外市場を強く意識しての合併話のようです。また、消費低迷を受け、流通業界での値下げ戦争はとどまるところを知りません。行過ぎた競争から体力を消耗して競争から脱落する企業も出始めています。商品ごとに磨く工夫と、このお店ならとお客様に思ってもらえるような店づくりが求められています。

 

多 角 化 戦 略

 

全茶連情報8月号に、茶業界を取り巻く環境について大変参考になる記事が掲載されていましたので紹介します。

1.市場浸透型戦略(既存製品×既存市場)

1965年に世帯購入量がピークを迎え、以後は漸減傾向に転じたため、茶業界は消費拡大策として「市場浸透戦略」に着手した。具体的には、売り出し広告やダイレクトメールやポイントカードなどを使い、顧客のリピート回数を増やし市場シェアの維持をはかった。ただ、製品のライフサイクルとしては成熟期を過ぎた既存製品は、他の嗜好飲料と徹底比較する消費者の目が厳しくなる中、価格面で競争せざるを得なくなり、結果、事業者の売上は低下し利益が生じにくくなる状況に陥っている。

2.市場開拓型戦略(既存製品×新市場)

既存製品で新市場に打って出るのが「市場開拓型戦略」であり、海外向けに増えている緑茶の輸出が該当する。一般的に既存市場で陳腐化した既存製品であっても、海外などの新市場で展開すると効果を上げることがあるとされ、欧米市場向けを中心に緑茶の輸出量が増えているのは、こうした効果に加え同市場における日本食ブームや健康意識の高まりが追い風となっている。

3.新製品開発型戦略(新製品×既存市場)

既存市場に新製品を投入しマーケットを活性化させて事業の再成長をはかろうという考え方が「新製品開発型戦略」である。これまで品種茶や新香味茶、ティーポットボトルなど、さまざまな緑茶のモデルチェンジ商品が開発されてきた。しかし、この中で商品開発に投じた資金を十分に回収している製品はごく一部に過ぎず、むしろ需要をうまくつかみきれないまま苦しんでいる事業や経営者の姿が目立っている。

4.多角化戦略(新製品×新市場)

1980年代に誕生した緑茶ドリンクは、新しい市場に投入された新しい商品であり「多角化戦略」に当たる。茶葉から抽出した緑茶を缶やペットボトルに詰めたドリンク飲料は、急須で淹れた茶ガラの処理を手間と感じ、緑茶を敬遠していた顧客層に支持され爆発的ヒットを遂げた。緑茶ドリンク市場は利益を計画的に再投資に回し、品質改善を重ねてロングセラー商品を確立した大手飲料メーカーによる寡占化が定着している面があり、中小企業が新規参入するのは大変むずかしくなっている。

5.高付加価値の新製品開発

静岡県の茶業は中山間地の斜面に茶畑が広がる産地を多く抱え、総じて生産効率が低く、高コストの生産構造である。ドリンクや加工用原料にも供給可能な生産性を実現しようと農家の規模拡大、製茶工場の大型化などに取り組んできたものの、後進産地との差は一向に埋まらない。茶価が続落する中で、もはや基盤整備や設備回収に投資する余裕がなくなったという事業者も次第に増えている。こうした状況を踏まえれば、製茶機械の大型化や自動化などによる低コスト生産を競っても、後進産地に勝る価格競争力は実現できないことは明らかである。ならば、新たな需要を生み出すような高付加価値の新製品の開発・販売に注力していくことによって茶価の維持・上昇、農家の再生産意欲の高揚をはかっていくことが望ましいといえよう。つまり、他産地にはない静岡県茶業の強みである長年培った緑茶生産の知識や経験を生かして「新製品開発型戦略」を深掘りすることが最も重要である。ただし、これまでにも多種多様な新製品が開発され市場に投入されてきたが、成果を上げている製品は非常に少なく、投資を回収できずに苦しんでいる事実に留意する必要がある。

6.ま と め

既存事業と関連性の低い市場で、新需要を生む新製品開発による

再成長が必要である。

(財) 静岡経済研究所 栗原広樹より