深蒸し茶

2009年10月 茶況_No.253

平成21年10月22日

秋冬番茶の摘採が終了した茶園では、整枝や敷ワラなどの茶園管理作業に取り組んでいる生産者の姿が見られます。茶価の低迷、後継者難と農地荒廃の逆風を受けてその対策に苦慮していますが、確信のもてる秘策は見つかっていません。財務省がまとめた1~8月の輸入緑茶の数量が前年同期比16%減と大幅減が続いています。緑茶ドリンクの原料原産地名の表示が義務化されたことにより、原料を国産茶葉にシフトする傾向の現われのようです。

産地問屋は仕上と発送作業をこなしながら消費地の需要に関する情報収集に努めています。景気は底入れしたという見方の反面、将来への不安材料が山積して、消費者の厳しい選択、賢い買い方が目立ちます。新製品による新需要開拓か、あるいは既存製品による新市場の開拓など選択肢は限られ、新たな成長戦略を模索し続けていますが、消費不況の真っ只中ですぐには経営改善効果を発揮できるような妙案は見つかりません。

各地区で品評会出品茶の入札販売会が開催されていますが、どこの入札会も落札率は前年を下回っています。ただ、上級茶の不足から落札単価だけは前年を上回る地区が多く、上級茶の品薄感を感じさせる結果となっています。先日、静岡県茶商組合主催の「静岡茶品評会」の入札会が静岡茶市場で開催されました。この入札結果が今後の茶況動向の指標となるために、茶業関係者は注目しています。今年の結果は下記のとおりです。

第45回静岡茶品評会 入札販売会

部  門 落 札 率 落 札 単 価
鶴印 4,500円 45%(54%) 4,985円(4,756円)
亀印 2,000円 50%(71%) 2,341円(2,265円)

(  ) 内は昨年の数字

入札参加業者は県内95社に上り、売上総金額は前年比24%減の2,296万円でしたが、現在の厳しい情勢を考えればまずまずとの声も聞かれます。

朝晩の冷え込みが強まり、消費地専門店では家庭用の需要増に期待しています。年末商戦につながるように「秋のお茶まつりセール」を実施してお茶の良さを来店客に懸命に伝えてはいますが、消費者の財布のヒモは簡単には緩みそうもなく、「冬のボーナスも減り、今後も厳しい状況が続く」、「節約から超節約モードに入った」との声まで出ています。いかにお客にわかりやすい特徴を打ち出しているか、いかにお客の満足感に結び付けられたかが勝負の分かれ目になっています。消費者の選別の目は一段と厳しくなってきて、得した感をこれまで以上に持たせない限り生き残りは厳しいのではの声も聞かれます。

 

士 魂 商 才

 

徳川将軍家は大政奉還(1867年)を機に、静岡に70万石の所領を持つ一介の藩主に格下げされました。 江戸にいた3万人余りの旗本・御家人は徳川家を離れて別の道を探すか、無禄覚悟で静岡に移住するかの選択を迫られ、結局1万人以上が静岡移住を望みます。手に職などない武士がどうやって暮らしを立てればよいか、こうして選ばれたのが当時輸出品として有望視されていたお茶の栽培でした。今、牧の原の台地に広がる広大な茶畑は、このとき静岡に移住した幕臣たちが血のにじむような努力で荒地を開墾した場所です。

渋沢栄一もまた徳川慶喜に付き従って静岡に移ってきましたが、彼の目的は開拓ではありませんでした。欧州で学んだ知識をもとに資本を集めて「商法会所」という日本初の株式会社を設立しました。生涯に500以上の会社の設立にかかわり、わが国資本主義の父といわれる実業化がなぜ万人に慕われたのでしょうか・・・。その答えは渋沢が著わした「論語とそろばん」の中にあります。日本の実業界の基礎を築いた彼は、常に「道徳ある経済」を説き、それが失われる風潮を嘆いたのです。渋沢栄一は埼玉県深谷市の豪農の家に生まれました。幼いときから漢籍に親しみ、剣術や書道にも励み、武士としての教養を身につけたうえで、生家が営んでいた染料用の藍玉の製造販売や養蚕に取り組み、商売と武士の倫理が矛盾なく両立するようになったのは、こうした環境に育ったためであるといわれています。明治の世には士魂と商才を併せ持った士族出身の実業化が数多く輩出されました。

渋沢は俗にいう「武士の商法」、ふんぞり返って商売をする士族に対しては、いくら教養があっても手厳しかったようです。青森銀行の創設時、銀行経営の何たるかについて教えを乞うべく上京してきた羽二重の紋付羽織で威儀を正している家老にこう諭したそうです。「銀行は民衆から少額の金を集め、資金の需要者に融通するものです。親切ていねいに一般人に応接せねばなりません。ゆえに、これまでの格式や風習を全部捨てて、心は武士であっても商人として経営せねばならないのです」。士魂商才の道理を聞かされて得心した家老は、その後地元青森の経済発展と士族の自立のために力を尽すことになります。「武士の商法」といえば気位ばかりが高く、商売熱心ではないことの代名詞のようにいわれます。しかし、ごくわずかですが成功者もいました。彼らに共通するのは、もののふならではの困難に打ち勝とうとする克己心と高い倫理観です。士族出身の実業家たちの中には渋沢の理想とする「士魂商才」を自然に体現する者たちが少なからずいました。明治の日本はそうした気骨ある実業家達によって築き上げられたのです。

儲け優先の現代の商法が置き忘れてきたもの・・・。今日、中国政府は経済と道徳の重要さに気づき、渋沢栄一を見習うべき唯一の日本人として取り上げています。