深蒸し茶

2019年4月 茶況_No.347

令和元年4月3日

茶園では春肥などの新茶に向けた管理作業を続けながら防霜ファンや防風ネットなどの点検をする生産者の姿が見られます。また、工場の大掃除や機械整備などの新茶期前の準備に忙しくなってきました。これから毎年同じ茶園で実施される定点茶園の萌芽調査も始まりますが、当初早いと予想されていた摘採時期も、ここ数日は朝晩が冷え込み寒暖の差があるために初取引は昨年並みになりそうです。各地区で新茶前の研修会が開催されていますが「茶業界の現状と展望」と題してハラダ製茶の社長さんの講演がありました。その中で食品スーパーの売れ筋商品はこの30年、500円/100g前後と変わっていないこと、茶葉タイプからティーバッグタイプがよく売れるようになり、生活スタイルの変化に合わせた商品づくりが求められていると解説しました。

産地問屋は新茶期前の在庫調整や冷蔵庫内の積み替え、今期の仕入予定数量など新茶期前の準備を進めています。リーフ需要の減退から小売店の閉店が相次ぎ上級茶の取扱店が極端に減っていますので、今年は上級茶の売り場確保が大きな課題になっています。静岡茶市場で3/13に開催された入札販売会では「問屋の在庫が多く売れ行きは鈍い」との市場責任者の話もありました。参加茶商は「取引先が求めるのは安価な茶」と粉茶や棒茶を落札していました。この単価では経営自体が不可能で、お茶で生計を立てていくことは困難と判断して廃業する生産者・産地問屋・小売店が今年から来年にかけてますます出ます。

消費地では店頭で「八十八夜予約新茶」の受付を続けています。八十八夜という季節感がうすれ厳しい状況の中、前年確保が目標です。また10月の消費増税に備え価格設定やレジ対応などの準備を進めています。これからは、スマホ・カードなどキャッシュレス決済が広がることから消費者行動のニーズに適応した対策を進めているお店もあります。消費税率の引き上げに際して「家計を見直す」と答えた人は57%に上ります。具体的な内容を聞いたところ「食品」59%、「外食・旅行などの娯楽費」40%と食品関連には財布のヒモはますます固くなりそうです。商品の購入先別(2つまで選択)は家電は専門量販店90%・通信販売24%、衣類はショッピングセンター68%・通信販売38%・デパート30%、食品は食品スーパー96%・ドラッグストア33%の結果でした。食料品・光熱費など生活必需品の値上げが続き生活満足度は頭打ち感が見られます。1月の緑茶購入量は14%減の62g、購入額は14%減の297円、茶飲料は7%増の477円と発表され、時代の変化は日増しにそのスピードを速め変化対応を求めています。

私も茶業界に身を置いて50年が過ぎました。その間、社会の移り変わりや業界の浮き沈みなど様々な経験をして学びました。急須で入れる茶葉からティーバッグ・粉末茶やペットボトルの普及にも立ち会いました。今一番感じることは、時代の変化に対応した経営をしていかなければ生き残れないということです。生き残るためには、その時代の「消費者のニーズ」はどこにあるのか、そして何を提供すれば「消費者の満足」を得られるのか、常にその2点「消費者のニーズと満足」を追求していかなければ行き詰るということです。今年70歳になりましたので主業務からは引退します。業務サポートと33年間続けてまいりました「産地情報」の発信はできる限り続けていくつもりですので宜しくお願いします。

「日 本 昔 話  桃 太 郎」

先日、NHKの「日本人のお名前」という番組で日本昔話に登場する「桃太郎」「金太郎」は太郎に何故桃や金が付いたのかという内容でした。
詳しくは陰陽五行説によるものらしいのですが、桃・金が付くことによって特別の力が備わった強い太郎になることのようです。特に桃には災いを取り除く力もあって、災いの象徴である鬼退治の昔話がつくられたそうです。  桃太郎は犬・猿・キジの三匹の家来を帯同します。犬は行動力、猿は豊富な知識と知恵、そしてキジは広い視野の確かな情報力をそれぞれが持って桃太郎を補佐します。桃太郎の昔話には現代に通じる経営の要諦が詰まっています。

経済大国を誇った日本は90年以降、低成長にあえいでいます。そして人口減少や高齢化が急に進み日本丸は沈みそうです。
そして、沈みゆく日本丸のその沈むスピードは加速しているように感じます。戦後の小売業は大量に商品を仕入れ、店頭に山のように積んでおけば買ってもらえました。
他社より安い価格で売るのが勝負でした。その後の経済成長で社会が豊かになると各家庭に必要なモノは揃い慌ててモノを買わなくてもいい時代になりました。売り手が強い時代から買い手が強い時代に変わったのです。
そして世の中の流行と変化するスピードが速くなって消費者の志向の変化についていかなければ淘汰される時代に入りました。世の中にモノがあふれ四六時中スマートフォンでつながって時間感覚の継ぎ目がなくなりました。
個人は場所や国を問わず結びつきスマホでモノを売買するようになりました。消費者が価格だけでなく便利さや時間や品質を重視するようになったのに経営者は時代が変化していることに気付かず対応してこなかったツケが回ってきています。
今、業績が良い小売業は時代の変化に合わせて対応してきた企業です。衣料品のユニクロ、家具のニトリ、そして便利さと時短で支援されたコンビニです
茶業界も急須で飲む茶葉からペットボトルやティーバッグなど生活スタイルの変化に合わせた商品づくりで対応してきた産地問屋は元気です。

リーダーである桃太郎は自分が置かれている状況を熟知して最強のメンバーを集めました。企業の成長発展の天井は経営者(リーダー)の才覚の天井と同じとよく言われます。
経営者(リーダー)が成長できる人かどうかで企業(チーム)の成長と行き着く先は決まります。キジは広い視野で様々な情報を集めてきます。その情報をもとに猿が対応策に知恵を絞ります。 そして行動力のある犬が一番適切な次の一手を打ちます。そのすべてを取りまとめるのがリーダーである桃太郎です。
例えば自動車関連企業であればコストを下げることはもちろん大切ですが、世界の自動車産業がこの先どう変化するかというマクロ感が重要です。
ガソリン車から電気自動車や水素自動車に、バックミラーはなくなり電子ミラーに、そしてAIによる自動運転車にと変わっていく中で、変化に対応できない次の一手を打てない自動車メーカーは終焉を迎えます。
昔アルバムに張った写真も今はスマホで撮って保存したり送ったりしますので現像する人は少数になりました。先を見越していち早く撮影スタジオに変わったところは生き残っています。
消費者が求める質の向上と時間の節約は今後も続きます。激変する世の中の変化や消費者の志向の変化についていくために今の場所だけで戦っていたのでは会社の成長はありません。
次にやるべきところはどこか常識を打ち破る発想が必要ではないでしょうか。情報を集めるキジ、その情報から次の一手を考える猿、次に戦う場所を選択して実行に移す犬、それらすべてを決定する桃太郎。 桃太郎の昔話は現代に通じる色々なことを示唆しているような気がします。
目まぐるしく変化する現代、変化に目を向けなければ取り残されてしまいます。そして、いつどうなるか分からないという危機感と矜持は常に持ち続けることが大切ではないでしょうか。