深蒸し茶

2013年8月 茶況_No.290

平成25年8月5日

本格的な夏場を迎え、茶園では日中の猛暑を避けて朝夕の涼しい時間帯に施肥や防除などの茶園管理が進められています。連日の猛暑から体調を崩さないように暑さ対策と水分補給は欠かせません。指導機関ではクワシロカイガラムシやチャハマキなどの防除適期になっていますので、防除を徹底するように生産者に呼び掛けています。茶業界も作れば売れる大量生産、大量消費の時代は終わり、売れるものを作る時代になりました。茶農家もお茶だけで生計を立てるのは厳しくなっていますので、山芋・レタス・白ネギ・ショウガ・ニンニクなどの野菜作りをする茶農家も出始めました。今年の掛川茶市場の二番茶の取扱数量は前年比39%増と発表されました。記録的な大減産に泣かされた昨年の二番茶と今年の一番茶とは対照的に大増産となりました。今年の二番茶は、下物を中心にペットボトルなどの飲料メーカーやドリンク関連業者の存在感が際立つシーズンでした。リーフ茶を主に扱う業者からは、ドリンク需要を重視した茶工場の対応に不満の声も聞かれます。

産地問屋は仕上と発送作業をこなしながら、消費地の情報交換を進め、秋口からの新商品投入と新規取引に向けての営業活動を行っていますが、厳しい状況は変わりません。7月は猛暑の影響もあって前年比5~10%のマイナスになっています。売上の減少、売掛金の回収難により廃業する茶工場・茶問屋も出ています。「選ばれる理由」がないと淘汰の道しか残されていません。どの方向の道へカジを切ったらいいのか、経営を立て直すためには何が必要か、茶業界も正念場を迎えています。

掛川市では世界農業遺産に登録された「静岡の茶草場農法」のブランド化を進めるために基準作りに取り組んでいます。認証制度ができるまで、行政は「茶草場農法」と銘打った商品の販売にストップを掛けていますが、茶商は茶草場農法の価値を高め、少しでも早く販売に繋げたい意向です。農商連携による態勢づくりが急がれます。

消費地では店頭で冷茶による呈茶を実施して、夏場の冷たいお茶のPRに努めています。ネット販売のシェアが増えて流通が大きく変化しています。変化の時こそ基本の徹底が大切ととらえ、基本の見直しと徹底に努めているお店もあります。「接客態度・清掃・品揃え」の基本3原則が自店では徹底できているかを全員で再度確認して、みんなで話し合う場をつくります。また、これからの高齢化に対応して3つの「不」の解消に取り組んでいるお店もあります。顧客の「不満・不便・不安」の解消です。何が不満なのか。不満の部分を徹底的につぶしていきます。何が不便なのか。出掛けるのがしんどいお客様には昔のように配達もします。不安のトップ3は①健康不安②経済不安③孤独不安との調査結果にもありますが、急須で淹れるお茶をゆっくりと飲んでいただく場を設けているお店もあります。会話もはずみ孤独不安も解消されるようです。さらに質の高い接客サービスにつながり、お店のファンとなって口コミもしてくれます。基本の徹底で改めて気を引き締め、日々の接客に努力しているお店には頭が下がります。

 

「プラチナ社会」がやってくる

 

「プラチナ社会」とは高齢化、環境、産業と雇用の3つの側面から問題解決を目指す新しい社会像です。現在の日本は他国に先駆けて問題・課題が顕在化している「課題先進国」と定義し、この状況を困難であると同時にチャンスと捉え、国際社会で真の競争力を持つために日本は今、何をすべきかを考察します。およそ200年前にイギリスで産業革命が始まってから、フランス・ドイツといった西欧に波及し、その後アメリカ、少し遅れて日本と続くわけですが、社会経済の仕組みをそれまでとは全く違ったものに変え、ここから資本主義社会、工業化社会が誕生します。日本は明治維新以降、近代化を目指して欧米諸国を必死で追いかけました。「殖産興業」を掲げて繊維産業、肥料産業、製鉄産業などの産業を育成して成長していったのです。司馬遼太郎の描く「坂の上の雲」の時代です。坂の上の空に輝く白い雲は西洋の社会であり西洋の産業でした。明治の日本は坂の上に目指すべき雲、導入すべき先進国のモデルがありました。坂の上の雲を目指して懸命に働いた結果1960年代の終わりにはGDPで世界第2位の経済大国になりましたが、経済大国になった時点で目指すべき坂の上の雲が消えてしまったのです。日本は先進国であり、すでに衣食住といった必需品を容易に得られる豊かな社会を実現しました。途上国には先進国という目指すべき社会像があります。インド・中国・ロシア・ブラジル・タイなどの途上国には工業革命が広がり急激に成長しています。そこで先進国は途上国にモノを売ろうということになります。たとえば自動車の数は先進各国は2人で1台の車を持っていますが、中国では100人に8台です。かつての日本と同じようにお金が出来れば買いたいのですから需要は増やせます。途上国では自動車や家電製品の需要が非常に高まっていますので、日本はそこでの競争に負けられません。砂糖・セメント・化学肥料が景気を引っ張った昭和の初期、そして白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫の「三種の神器」が引っ張った時代、その後、車・エアコン・カラーテレビの3Cが景気を牽引していきましたが、そういう製品が飽和状態になり、先進国ではなかなか需要は増えていません。

イギリスで産業革命が起こってから、産業革命に追随した国が先進国になりました。それが最近になって途上国に行き渡り、先進国に追いついてきて両者が接近しています。それは世界中が豊かになるという意味では福音ですが、新たな問題を生むこととなります。第1に地球規模の環境問題です。第2に高齢化です。経済的に豊かになると出生率が下がり寿命が延び、結果として高齢化が進みます。第3に需要不足です。生活に必要なモノが一通り揃っている先進国では慢性的なモノの飽和状態になり、量よりも中身の質を求めるようになっています。これら3つの課題を高いレベルで解決した社会を「プラチナ社会」と呼びます。先進国共通の課題は、もうすぐ途上国も直面する課題です。これからの数十年で世界は次のステージに移行しようとしています。日本のこれからの10年間は本当に重要な時間となります。新しい需要をつくり出し、雇用など国内問題を解決しなければ、日本は幸せにはなりません。目指すべき「質」の高い社会であり、「美しい生態系」「エネルギーの自給」「健康寿命の延伸」が重要なテーマとなります。

三菱総研編「プラチナ社会がやってくる」より抜粋