深蒸し茶

2020年2月 茶況_No.356

令和2年2月8日

生産者は茶園の点検や春肥の準備などの管理作業を進めながら経営改善のための研修会に参加しています。先日、静岡茶市場で開催されたパネル討論会「令和の時代を拓く茶業戦略」では「量を確保するよりミル芽摘採を優先してほしい」「飲食店や宿泊施設で美味しいお茶を出す場を増やしたい」ハラダ製茶社長、「茶の機能性を分析し、新商品を開発することが静岡茶のPRにつながる」「顧客に茶以外の農産物も提供し満足度を上げる」

佐藤園社長、「お茶を楽しむ工夫、売り方や見せ方・伝え方を変えていけば需要を拡大できる」チャイチワークス代表と消費者の行動に合わせた「売り方」の必要性が提案されました。2/14(金)には茶業研究センターで成果発表があります。「静岡抹茶の生産拡大と安定生産に向けた新技術」、「ドリンク原料茶生産体系の構築に向けて」、「茶におけるスマート農業技術の実証について」などです。2018年の茶産出額は全国972億円の内、静岡308億円(32%)、鹿児島290億円(30%)と静岡県が辛うじて1位の座を維持しました。県内の茶産出額は1992年の862億円をピークに右肩下がりとなり2018年には36%減と減少に歯止めがかかりません。生産者からは「減産にもかかわらず単価も下がっている。消費拡大策が急務」との声も上がっています。三寒四温とは本来は春先に使う言葉でしょうが今年の冬は寒い日が3日間、暖かい日が4日間と茶の木も眠ったり起きたりとゆっくり休眠できない日が続きます。

産地問屋は仕上・出荷と在庫調整を進めていますが厳しい状況が続いています。静岡茶市場で毎月開催している入札販売会が1/22に開催されましたがドリンク原料となる棒茶やティーバッグ原料となる粉茶などに引き合いがみられましたが他は低迷で荒茶の荷動きの鈍さが目立ちました。参加した問屋からは「専門店の廃業が目立ち取扱量を増やすのは難しい」といった声も聞かれました。

消費地では店頭に見えていただいたお客様への呈茶を続けながら販売に努めています。新型肺炎など色濃い景気低迷感から節約志向はさらに強まり消費の先行きに陰りが見られます。10月~1月の売上高は暖かい日が続き家庭需要が振るわなかったのに加え歳暮などの不調も響いています。2020年アンケート調査でも「良くなる」18%に対して「悪くなる」33%、「家計を引き締める」52%と悪化見通しが色濃くなっています。お客様が「なぜ当店で買ってくれるのか」をも一度見直し、お客様目線で価値を見つけて、それを伝えられるように懸命に努力しているお店もあります。

山形市で創業320年の老舗百貨店「大沼」が自己破産を申請しました。山形県は百貨店がない初の都道府県となり業界の苦境が改めて浮き彫りとなりました。全国的には倒産は減っていますが、休廃業・解散は後継者不在などを背景に増加しています。帝国データバンクでは景気停滞や人口減も相まって、今後も休廃業・解散により事業活動を停止する件数が増えると報告しています。

モノを軸とした20世紀の戦いに勝利したイオンも社長が交代します。成功し過ぎたイオンは変わりたくてもなかなか変われませんでしたがトップ交代で巨艦に激震を与えます。国内市場は、かってない人口減少時代に入り、消費の舞台はデジタルにシフトしています。変わらなければ人口減とデジタル時代は生き残れないというのが本音ではないでしょうか。人手不足など小売りの経営環境が悪化する中、イオンがどう動くのか目を離せません。

 

 

「何を売るか」から「なぜ買うのか」へ

  日本の農産物は品質が良く、おいしいと世界的にも高く評価されています。ところが、生産者からは「売れない」「もうからない」という声が聞こえてきます。「もうかる農業」と「もうからない農業」の差は、どこから生まれてくるのでしょうか。

その問いを解くキーワードは「マーケティング」にあります。生産者の中にはマーケティングを「販売」や「売り込み」と考え「既に取り組んでいる」と答える人も少なくありません。「販売」と「マーケティング」は一見似ていますが、その発想は正反対です。「販売」の発想の起点が生産者であるのに対して「マーケティング」は消費者が起点となります。つまり、実際に農作物を購入する「消費者」の目線で考えるのがマーケティングの基本なのです。例えば、お茶を欲しいと思う消費者は、お茶というモノではなく、リラックスや健康といった価値を買っているのです。つまり、消費者が買うのはモノでなく価値。これがマーケティングの発想です。

全国農業者調査からも、消費者目線重視の生産者ほど業績が良く、農作物を収穫するまでが主な仕事と考えている生産者ほど業績が悪いという結果が出ています。つまり「収穫したら終わり」という考えでは売れない時代なのです。

これまで日本の生産者は「高品質」の農作物を生産することで売り上げを伸ばしてきました。しかし、技術の向上に伴い高品質というだけでは売れなくなると、全国各地でキャンペーンやフェアを開催して「販売」に力を注ぐようになりました。残念ながら「売り込もう」という発想では、消費者の「買いたい」という気持ちは喚起されません。それどころか、ますます消費者の財布のひもは固くなるばかりです。消費者の気持ちを想像し、理解した上で、消費者に新しい「価値」を提案する。つまり、消費者と同じ方向を見る「消費者目線」がこれからの農業に不可欠となっているのです。「消費者目線」の導入は、いざ生産者が実行しようとすると意外と難しいのが現実です。生産者は、頭では「消費者目線」の重要性を認識していたとしても、無意識に生産者目線になっているのです。ではどうすれば「消費者目線」に変えられるのでしょうか・・・。

それは、小売店に行って自分が生産した農作物を自分のお金で買ってみることです。小売店でどのように並べられ、いくらで売られているのかを見れば、自分の商品の位置付けも理解できますし、実際に購入すれば、支出の痛みも実感できます。消費者は、なぜ自分の農作物を買うのか。生産者が自分の農作物の価値を自問自答してみることも重要です。生産志向の人は「何を作るか」、販売志向の人は「何を売るか」を考えているのに対してマーケティング志向の人は消費者が「なぜ買うのか」を考えます。

茶業関係者の多くは茶葉が売れない理由を「生活スタイルの変化」「急須ではお茶を入れないため」など外的要因のせいにしています。私は「急須が面倒だから使われない」というよりも「急須でお茶を入れる楽しみが伝わっていない」からではないかと考えます。

「茶葉離れ」「消費減少」など消費者サイドに不振の要因があると決めてしまったら何も変わりません。変えることができるのは「自分のやり方」です。

そして最大の脅威は「何をしても無駄」という諦めの気持ちです。消費者目線を忘れずにチャレンジを続ければ、茶業界も必ず好転していくはずです。

 「農業のマーケティング教科書」岩崎邦彦著より

 

 

生産志向・販売志向・マーケティング志向

 

「生産志向」     生産者 → 農作物    農作物と向き合う

「販売志向」     生産者 → 消費者    消費者と向き合う

「マーケティング志向」 消費者・生産者 → 消費者と同じ方向を見る

選ばれる理由 = 価値の生み出し方

わずかな違い(こだわり)でも選ばれる理由になる

 

  • 農作物そのもの(味・香り・食感・形状・サイズ・色)
  • パッケージ  (パッケージで個性化)
  • 生産方法・栽培方法・肥料・餌
  • 生産場所・生産時期
  • ストーリー  (農作物や生産者に関わる物語)
  • 利用シーン  (新たな利用シーンを提案)
  • 用途の限定  (「卵かけご飯用醤油」など用途を限定して価値を出す)
  • 売る場所   (従来と違うチャネルで販売)

ま と め 

  • 農作物を購入する「消費者目線」で考えるのがマーケティングの発想。
  • 消費者が買うのは「モノ」ではなく他とは違う「価値」。
  • 自分の生産した農作物を自分で買うことで消費者目線を身に付ける。
  • 不振の原因を「外的要因」に求めず消費者目線でチャレンジを続ける。
  • 弱みを改善するのではなく強みを伸ばす発想の転換が価値を高める。

 

 

 

<新商品発売のお知らせ>

ドリップフィルター「茶楽らく」

「淹れる手間よりも捨てる手間」とよく言われますが、お茶を淹れるのは面倒だとは思わないが、使用した後の茶殻の処理を面倒だと思っている消費者の方は意外と多いものです。

そこで今回、使い捨て型の急須・カップ用のティーフィルターを開発いたしました。

このドリップフィルター「茶楽らく」を使用することによって、捨てる手間と洗う手間が簡単になり、手軽にリーフ茶を楽しむことができます。リーフ茶の消費低迷により、茶業界は大変苦戦を強いられておりますが、本製品を使用することにより、リーフ茶復活につながればと思い、本商品を開発いたしました。ロッドや価格等、お気軽にお問合せください。

Mail:nakane@kakegawa-cha.co.jp

TEL:0537-23-3252