深蒸し茶

2019年8月 茶況_No.350

令和元年7月31日

茶園では施肥や防除などの茶園管理が続けられています。夏の母枝の善し悪しが、来年の一番茶の品質に大きく影響しますので夏の管理は重要です。熱中症に注意して朝夕の涼しい時間帯に水分を補給しながらの作業になります。二番茶の最盛期に価格低迷で採算が合わなくなり途中で製造を中止した工場もありました。「とてもじゃないが、この価格ではお茶は続けられない」といった声も聞かれるようになりました。今年の1・2番茶取引は大規模な減産と相場安のダブルパンチでダウン寸前です。お茶は一番茶・二番茶・秋冬番茶と3回収穫しますが、稼ぎ頭の一番茶が売れないでドリンク原料の二番茶と秋冬番茶が売れる現在の状況では農家経営は成り立ちません。一番茶を収穫して二番茶、二番茶を収穫して秋冬番茶になるわけですが、一番茶を収穫しなければ後の二番茶・秋冬番茶に続きません。二番茶・秋冬番茶だけを収穫するわけにはいきません。一番茶の消費を喚起する方策を早急に考えないと今年の状況は今後も続きます。ドリンク原料製造にはGAP認証が必要になります。しかし、経営規模の小さい工場では対応しきれないのが現状です。大手メーカーは「持続可能な茶農業の実現に向け積極的に取り組んでいく」とアピールしていますが持続不可能な茶農業になりそうな雲行きです。私の若い頃はインスタントコーヒーが全盛でしたが、自動的に豆からコーヒーを抽出する器具「コーヒーメーカー」が出回ってからは、本物の豆を使用したコーヒーが多く飲まれるようになりました。昔は一部マニアックなお酒好きしか飲まなかった焼酎が蒸留法を変えることによって誰にでも好かれるお酒に変化して広く浸透しました。お茶もコーヒー・焼酎のように本物のリーフ一番茶が飲まれるキッカケづくりがないものでしょうか。

産地問屋は夏休み前の仕上と発送作業を進めながら用途別に荒茶の整理をしています。県産二番茶が平成の最安値となった要因について「消費の低迷に伴って一番茶も含めて在庫が多くなり仕入量を抑えたため」ハラダ製茶社長。そして需要拡大策として「おいしいお茶を振る舞う仕組みをつくり家庭でも飲んでみようかと思うきっかけをつくりたい」と提言しました。

消費地では冷茶による接客を続けながら「水出し緑茶」と「帰省土産」の販売に力を入れます。売れ行き不振から後継者のいない専門店の閉店数が増加しています。日本の人口は減少しているのに世帯数は増加しています。ということは世帯の規模が縮小しているということです。昔は大所帯でお母さん、お祖母さんが手料理したものを食卓を囲んで皆んなで食べました。今は個食化が定着して冷凍食品や惣菜など中食のニーズが高まっています。そしてすぐに食べられる時短調理、少量などの食品が売れています。茶業界もライフスタイルの多様化にそった経営が大切です。マイクロプラスチックによる海洋汚染がG20で議題になり、自国で発生したプラ容器は自国で処分するようになります。日本は236億本のペットボトルを使っていますが、「脱プラスチック」の流れは大きく動き出しました。日本の容器は、ほとんどプラスチック使用ですが今後の流れはが変わるような気がします。

 

夏 期 休 暇 の お 知 ら せ

8月10日(土) ~ 8月15日(木)  9日(金)の出荷は午前中となります。

 

 

 

 ロボットやドローン、IOTなどを活用して生産性の飛躍的向上を目指す「スマート農業」が注目されています。農林水産省は「スマート農業加速化実証プロジェクト」を立ち上げ新規に50億円の予算を計上しました。データの蓄積と活用、通信など先端技術との融合は、品質を維持しながら省力化とコスト削減を可能にします。そして、農業未経験者の就農を促して農業の担い手確保も期待できます。スマート農業は国策の位置付けとして本年度の「骨太方針」や「未来投資戦略」にも明記されています。

静岡県では国の方針を受けて農業の成長産業化を目指し、先端技術開発プロジェクトの事業化を目指す組織「AOIフォーラム」を沼津市に開設しました。後継者不足、茶工場の廃業など静岡の農業はかってない苦境に立たされていますが、疲弊した農業者を応援するプロ集団です。そして「スマート茶業」の推進にも力を入れ始めました。茶園に設置したカメラやセンサーで病害虫や生育状況を遠隔地から監視するシステムで土壌や水分の状況を科学的に測定して効果的な施肥や収穫時期の判断に生かしたり、ドローンを使うことにより農薬散布の作業時間を短縮したり、運搬作業時にはアシストスーツを導入して力仕事の軽減をはかるなど、生産現場でのデータを活用するスマート茶業に取り組んでいます。

県内産荒茶の生産量は30年間で半分に、県内茶産出額もピークの半分以下まで下落しました。減産でも価格が下がるのは、急須で入れて飲むリーフ茶の消費低迷が続き、ドリンク向けなど安い茶中心に市場が変容したためです。特に一番茶はリーフ茶としての消費が年々減退して、家庭消費は支出金額でペットボトル茶601円、リーフ茶316円と家庭でもペットボトル茶の消費が主流になっています。静岡県は中山間地域で高級煎茶や輸出向け有機茶など高付加価値化を図り、平坦地ではドリンク原料など低コスト生産を進めるという方針です。「このままではお茶は続けられない」との業界内の声は多く、静岡茶はかってない苦境に立たされていますので「スマート茶業」の実践を急ぎます。「情報の共有、アイデアの創出、他業種との協働により新しいお茶を作る。一からやるのではなく既存のお茶や手法を活用すればよい」小泊茶文化促進会長。「生産現場が効率化されても出口の消費が伸びないことが現況です。業界の活性化には国内消費の拡大が先決。このままでは農家も茶商も共倒れしてしまう」成岡全茶連理事長。「一番茶を売っていく戦略づくりは業界の喫緊の課題だ。一番茶に活力が戻れば生産者も元気になるはず。それには、お茶の機能性が見直されるPRが求められる。生産面では茶園の基盤整備と農作業の自動化は必須。組合としては、おいしいリーフ茶をスマートにおしゃれに飲んでほしいという思いから現代に合った茶器づくりに取り組む」佐々木県茶商理事長。

静岡県の農業人口は半減し、85%が60歳以上となった現在、スマート茶業への取り組みを加速し、研究や実験段階から現場での実践に移行して、関心を持つ人を増やし導入の働きかけを急ぎます。静岡県の「物づくり」で培った工業技術とスマート茶業の融合が活性化して若者や女性など経験のない人の就農など担い手確保にも期待しています。スマート茶業をより効率的に展開するためには、生産団体の再編や農地集積などの基盤整備や経営面での検証も欠かせません。また、機械の導入や維持管理に掛かる費用が課題として指摘されています。今後の展開として生産現場、流通、加工、販売、消費のデータを集積した「スマートチェーンシステム」の構築が必要です。静岡茶の復活には生産、流通、行政が一体となり、消費者のニーズを敏感に捉え、ニーズを満足に繋げる努力は欠かせません。新たな挑戦と変化を続けていくことが、静岡茶の生き残り、そして復活に繋がるはずです。