深蒸し茶

2019年11月 茶況_No.353

令和元年10月16日

東日本を縦断し、記録的な大雨をもたらした台風19号による影響で、河川の堤防が決壊し住宅地などをのみ込む大規模な洪水被害が各地で発生しました。現在も各地で懸命な捜索や復旧作業が続いています。被害にあわれた方々には心よりお見舞い申し上げます。

茶園では秋冬番茶の摘採が終了して、来年に向けた茶園管理が進められています。台風による悪天候を見越して生産を前倒しで終了する工場もありました。県産秋冬番茶は減産との予測から引き合いは強く、ドリンク関連業者は数量確保に動きましたので中盤からの価格は横ばいの360円~350円で手合わせされました。これから茶農家は茶園の畝間に敷く山草を刈る作業に入ります。茶草場は山の急斜面が多く大変な作業になります。

産地問屋は仕上・発送作業を進めながら秋の販促の対応と歳末商戦をにらんだ準備を進めています。リーフ茶需要が急速に落ち込み、売上減と在庫過多の二重苦から廃業も視野に入れた悲観的な見方が大半です。毎月1回開催される静岡茶市場の入札販売会には115点が出品されましたが、落札されたのは棒茶や粉茶など価格の安い出物類だけという厳しい状況が続いています。これから各地区で品評会に出品された出品茶入札会が開催されますが、落札率と落札単価によって今後の茶況の判断材料になりますので関心は高まります。上向くのか下向くのか成り行きに注目です。

消費地では朝夕の涼しさが増すにつれ忙しくなってくれることを期待します。「秋の売り出し」「蔵出しセール」を実施して、その勢いを「歳暮商戦」につなげたいとの狙いから秋と暮れのセールをセットで企画するお店もあります。今月から始まった消費増税は煩雑で頭を悩ませています。「面倒な制度にしてくれたものだ」「迷惑でしかない」といった声も聞かれます。売上の低迷から「やめ時を探りながら何とか踏ん張っている」といった声まで出て今後への不安は隠せません。取引先のある社長さんは「閉店しても大して困らないと言われないように、地域になくては困るお店を目指す」、そのためには「節約志向は根強く価格競争に陥りがちだが、他店と差別化した上質な商品と上質な接客を強化して勝負したい」と話される言葉に力強い説得力を感じました。

日本の小売業は大きな曲がり角を迎えています。人口減少やネット通販の急成長により環境が大きく変わっているのに対応が遅れたことが原因です。セブンホールディングスは不採算のセブンイレブンを約1千店閉鎖、約3千人を削減する構造改革を発表しました。経営体力のあるうちに総合スーパーと百貨店事業に大ナタを振るい稼げる体質への脱却を図るのがねらいです。西武岡崎・西武大津・そごう西神・そごう徳島・そごう川口の5店を閉鎖し、イトーヨーカ堂に至っては33店舗を整理します。採算性の改善が困難と判断した店の閉鎖を決断したとのことですが、従業員、納品業者、出展業者等も巻き込んだ大リストラの台風が吹き荒れます。高島屋も港南台・海老名・米子を整理して都心店に経営資源を振り向ける構造改革を発表しました。営業黒字が見いだせないものは縮小、撤退していくとの説明です。ユニクロは快走を続けています。海外事業の売上高が1兆円を超え営業利益も国内事業を上回りました。経営トップの手腕で吉凶大きな差が出ています。

成長の余地を確保しながら、新たな成長エンジンをどう生み出すのかが大きな課題です。

 

 

 

阿 信(ア・シン)

 昭和の後半から平成の初めにかけてグローバル化する流通業界で強烈な存在感を放ち、熱海の八百屋を世界的な総合スーパーチェーンに育て上げ、最後は破綻を回避できなかった元ヤオハン代表の和田一夫氏が波乱に満ちた90年の生涯を閉じました。流通業では当時戦後最大となる1600億円超の負債を抱えての倒産は、絶頂とどん底を味わう波乱に満ちたドラマ仕立てのような生涯でした。

大学卒業後に両親が熱海で開いた青果店で働くようになり、33歳で社長になると旅館に野菜などを卸していた事業を一般向けの小売店に変更して多店舗化に乗り出しボーリング場跡地などを次々とスーパーに改装して店舗網を熱海から静岡県内全域に一気に広げました。1970年代になると同業他社に先駆けて海外に進出し、熱海の商店から年商5千億円、海外16ヶ国に店を持つグローバル企業に育て上げたのです。当時はダイエー、イトーヨーカ堂、西友、ジャスコ(現イオン)などの大手スーパーが全国展開に乗り出し流通革命が始まっていました。ダイエーなどが地元に乗り込んで来たら太刀打ちできないとの危機感から「流通業のソニーななるんだ」と語り、先に成功を収めていたソニーをモデルに海外進出を構想したのです。1971年にブラジルに進出しましたが同国の経済が低迷していた時期で数年で撤退します。失敗に懲りて動けないと思ったらその後中国、タイ、英国、香港に進出しました。国内でも身の丈に合わない巨大なショッピングセンターを手がけました。1984年に香港に拠点を移して移住し、高級住宅地として知られる香港島の山の頂にある豪邸に居住して世界に指示を出しました。360度海を眺めることができる部屋数は30室、無理しているなと感じた人もいましたが鄧小平、李鵬、陳雲に連なる華麗なる中華人脈や華僑と渡り合うには、無理しても成功の証が必要だと考えたようです。当時は大手スーパーが全国展開に乗り出し流通革命が始まっていました。流通革命の結果、現在ではイオン(旧ジャスコ)1社だけが成長を続けていますが、ヤオハンは倒産、ダイエーは経営不振によりイオンに売却、西友は米国ウォルマートの子会社に、イトーヨーカ堂はセブンイレブンに吸収されるという厳しいものでした。「夢は必ず実現する」という信念のもと同業他社に先駆けて海外に出店しましたが、今は当たり前になったことに先鞭をつけた構想力を評価する人たちもたくさんいます。

1983年(昭和58年)に放送された連続テレビドラマ「おしん」はテレビドラマの金字塔ともいわれ平均視聴率52.6%、最高視聴率62.9%という驚異的な数字を記録、全国民の2人に1人は見た「国民ドラマ」に日本中が涙しました。「おしん」は戦中から戦後にかけて貧困に負けずたくましく生き抜いた女性の物語ですが、ヤオハン代表の和田一夫氏の母カツさんがモデルと言われています。1995年に上海に開いたヤオハン百貨店には開店初日に107万人が来店して、エスカレーターが止まりギネスに認定された来店客数は今でも語り草です。「おしん」は世界各国でも放送され人気でしたので、上海ヤオハンは「阿信(ア・シン)」のデパートと話題になりたくさんの人達が来店したようです。

波乱万丈の人生を果敢に生きた和田一夫氏。倒産という責任は重いが流通の海外展開の先駆けを見通した功績を評価する声も聞こえます。晩年は後進を育てたいと経営コンサルタントとして講師役を務め自らの成功と失敗から得た教訓を経営者らに伝えました。こうした活動には批判の声もありましたが、人懐っこい笑顔を浮かべる魅力的な和田さんを囲みいつも人が集まっていました。

「おしん」は貧しさとたたかい我慢と辛抱を重ねる物語でしたが、原作脚本の橋田壽賀子さんは「私たちの暮らしは豊かなったけれど本当に幸福なのかしら?豊かになるために何か大事なものを切り落としてきたのではないかしら」とドラマを通して問いかけたかったのではないでしょうか。

 

 

<新商品発売のお知らせ>

ドリップフィルター「茶楽らく」

「淹れる手間よりも捨てる手間」とよく言われますが、お茶を淹れるのは面倒だとは思わないが、使用した後の茶殻の処理を面倒だと思っている消費者の方は意外と多いものです。

そこで今回、使い捨て型の急須・カップ用のティーフィルターを開発いたしました。

このドリップフィルター「茶楽らく」を使用することによって、捨てる手間と洗う手間が簡単になり、手軽にリーフ茶を楽しむことができます。リーフ茶の消費低迷により、茶業界は大変苦戦を強いられておりますが、本製品を使用することにより、リーフ茶復活につながればと思い、本商品を開発いたしました。

ロッドや価格等、お気軽にお問合せください。

Mail:nakane@kakegawa-cha.co.jp

TEL:0537-23-3252