深蒸し茶

2017年9月 茶況_No.334

平成29年9月22日

茶園では、来週から始まる秋冬番茶摘採の準備をしています。現在出回っている早場所の価格は、前年比1割高位で取引されています。秋冬番茶は量販店のほうじ茶原料や主にドリンク原料になりますので製造する茶農家も仕入する問屋も限定されます。ドリンク関連業者は数量の確保に動きますが、今年は高値推移が予想されますので納品価格と数量確保の調整が難しくなりそうです。

若者が農業を離れて都会に向かい後継者不足が深刻化していましたが、大企業の海外移転により多くの若者が低賃金の非正規職に追いやられて生活が不安定になてから、帰郷する若い就農者が目立つようになりました。若者が農業の可能性に期待して新たな農業のあり方を考える新しい時代に差し掛かっています。

産地問屋は、これから始まる秋冬番茶の受入準備をしていますが、秋冬番茶で今年のお茶の仕入はすべて終了します。秋冬番茶は容器が30k大海入と大きくなりますので大容量の保管場所の確保は必須条件となります。今後は消費地と情報交換を進めながら新商品の売り込みに努めます。産地問屋は生産農家と強固な関係を築くことがベースになっています。常に生産から販売までを視野に入れて商品を企画して価値を訴求するために基本的な部分を改めて見直し、新しいヒントにします。そして、有機栽培茶の生産強化や健康食品としての茶成分の活用などにも取り組みます。

消費地では、急に秋の気配となり、お茶消費に期待を寄せています。これから始まる「秋の売り出し」「蔵出しセール」で活況を取り戻し、年末商戦につなげたい考えです。秋の結果が年末の売上に連動していますので「当店の商品は、あなたの生活をこんなに豊かにできます」というメッセージを商品やサービスを通じてお客さまにつたえようとする姿勢を強く感じます。

米国でも日本でも、小売店舗の閉店や倒産が過去に例のない勢いで進んでいます。米国の玩具販売大手トイザラスが経営破綻しました。日本トイザラスは国内で160店舗を運営していますが、管轄会社が違うので直接の影響はないとしています。倒産の原因は価格競争の激化とインターネット通販アマゾンに押されて顧客離れが続いたことが要因のようです。20年前にトイザラスが開店した時には多くの小売店が閉店・倒産しましたがネット時代に入り、今度はトイザラスの倒産となりました。20年一昔、時代は大きく変化していることを痛感します。

ネット通販は、共働きで買い物に十分時間を割けない女性や車を持たない家庭が増えたことから需要が急拡大しています。店頭での販売が伸び悩む中、ネット事業を成長分野と位置付けて、流通各社がネットで注文を受け付けて商品を自宅に配送するネットスーパー事業を展開していますが、日本では配送無料という考え方が定着していて、黒字化するのは至難の業です。今後は収益改善が急務となります。

ネット通販もパソコン世代からスマホを眺めながら日用品を買う第二世代に入り、嵐のような小売危機は始まったばかりです。10年先はどんな時代になっているのでしょうか。

 

 

海図のない、前例のない戦いが始まっている

 表題の言葉はトヨタの豊田章男社長が記者会見で語った言葉です。政府主導でガソリン車から電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)への転換をめざす動きが世界で強まっています。地球温暖化防止を共通認識に、大都市での深刻な大気汚染や健康被害をもたらす排気ガスの抑制が求められているからです。英国とフランスは2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する方針を表明しました。スウェーデンのボルボは2019年以降に発売する全車種を電動化すると発表しました。英国のジャガーは2020年以降はガソリン車を製造しません。米国や中国では、排ガスゼロの次世代エコカーを一定以上売るように求める電動車販売義務制度を導入しますが、中国はトヨタの独壇場となっているハイブリッド車(HV)をエコカーと認めないと明言しました。インドは2030年までに新車販売の全量を電気自動車(EV)にする政策を検討しています。ドイツのフォルックスワーゲン(VW)は、車の電動化に向けて2兆6千億円の投資を決めました。ベンツも全車種に電動化モデルを用意する考えを明らかにしました。自動車産業の電動化への変革は止められませんが、ハイブリット車(HV)を得意とする日本メーカーの出遅れ感は否定できません。

トヨタはスバル、マツダ、スズキと業務提携を結び、トヨタグループとして首位争いに臨みます。こうした新しい局面に既存の自動車メーカーの提携が有効なのかどうかは見通せませんが、自動車産業を巡る国際的な競争環境の大きな変化がトヨタを駆り立てます。ガソリン車より部品数の少ない電気自動車(EV)は、新規参入が比較的容易ですので、グーグルやアップル、アマゾンや電機メーカーなどが参入すれば、既存の自動車メーカーにとっては苦しい戦いになります。03年創業の米EVメーカーの「テスラ」が急成長し、中国の新興メーカーも猛追し始めています。各自動車メーカーは、生き残りをかけて、業種にとらわれない提携を検討し始めました。

掛川にあるマフラーを製造している大手企業は、EVになれば将来仕事がなくなることを想定して、原材料のチタンを使った軽量自転車や車椅子への転換を模索しています。下請企業にとって無くなる部品もあれば、EVに必要となる部品もあり、将来を見据えた受注にカジを切り始めているのです。自動車産業誕生から一世紀、今大きな転換点を迎えています。

茶業界もヤブキタが世に出て100年、深むし茶が普及して60年、ライフスタイルの洋風化から米離れが進んだことによって日本茶を日常的に飲まれる機会が徐々に少なくなり、次の転換点を迎えています。一般家庭では緑茶ドリンクの支出金額6632円に対し、リーフ茶の支出金額は4168円と茶葉よりも飲料茶の方に多く支出しています。生産農家戸数は高齢化と後継者不足により減少を続け、消費地小売店数もピーク時の半分です。緑茶消費はドリンク需要に支えられているために低価格の原料は不足気味となっていますが、急須で飲む上級茶は余剰気味です。近年、健康志向ブームにのって、カテキン効果や無糖飲料であることにより日本茶が見直される動きへとつながりつつあります。現在、業界が置かれている状況をよく考えて新しい局面に優位を築かなければ、生き残ることは難しいでしょう。当然、提携や合併も視野に入れてのことです。

トヨタの社長は「海図のない、前例のない戦いが始まっている」と語りましたが、茶業界も迎えつつある大きな転換点にどう対処すればいいのか、答えはまだ出ていません。