深蒸し茶

2017年8月 茶況_No.333

平成29年8月7日

猛暑が続く茶園では、朝夕の涼しい時間帯に管理作業が続けられています。二番茶で手当て不足のドリンク業者の要望により一番後に台切りした茶園の台切り茶の製造もほぼ終了しました。近年は二番茶・秋冬番茶・台切り茶と大量に原料調達する大手ドリンクメーカーが相場を形成しています。二番茶もドリンクメーカーが数量確保に動きましたので数量は10%前後の増産でしたが価格は20%高で終了しました。9月下旬から秋冬番茶の生産が始まります。今年最後の茶製造となりますが、今年一番値下の価格になりますので、ドリンク関連業者は今から必要量を予約して数量確保に動きます。県内のリーフ茶を扱う8割の業者は必要としない価格帯となります。県が廃止方針を示した県製茶指導取締条例について川勝平太知事は、時間をかけて検討していく方針を示し、パブリックコメントを踏まえて新しい茶の振興策を検討すると発表しました。「条例は施行から60年たつ。県条例によらなくても、食品衛生法と食品表示法で規定されている。今の時代に合わせてどうすることが適切か、しっかり議論してほしい」と述べました。条例廃止方針が明らかになって以降、茶産地の自治体、消費者団体から反対意見が相次いでいました。パブリックコメントでは条例廃止に反対が8割を占め、条例がなくなれば天然自然な静岡茶の信頼を損ねる心配があるとの声が根強くあることを再確認しました。一方で、他県に市場を取られてしまった、商品開発競争に勝つために廃止が妥当というコメントもありました。条例は時代遅れになっている「廃止ではなく、改正すべき」との意見が多数を占めています。

「県製茶指導取締条例」静岡茶の声価を維持しようと1956年に施行された、着味・着色や異物混入を原則禁止する条例は他に類がない。香り付けのため花や果実を混ぜたり慶事用に金箔を混入したりする場合は県知事の許可を受けなければならない。

産地問屋は仕上げ作業を進めていますが、暑い日が続きますので苦戦しています。冷蔵庫内で冷やして使用するボトルの普及により「水出し緑茶」の出荷は年々増えています。テレビ放映等の影響もあって7月は前年並みを確保できました。夏休みに入り小学生と保護者を対象にした「夏休み親子で楽しむ茶講座」も各地で開催され、茶道具の紹介やお茶の入れ方を学んでいます。

中元商戦が一段落した消費地では「水出し緑茶」の販売に力を入れています。水出し緑茶は水で抽出しますが、お湯で出して湯飲みに入れたお茶を氷が入ったグラスへ移して急冷する「冷茶」もていねいに説明しています。暑くなれば、やっぱり冷たいものが飲みたくなりますので、このお店に買いに来て良かったと満足していただける顧客づくりに励みます。「地域に根づいた接客と商品と売り場を磨き続ける努力が重要」とある繁盛店の社長さんが私に教えてくれました。

ヤマト運輸は今年4~6月期の営業損益が100億円の赤字になったと発表しました。大塚家具が発表した6月中間決算は売上高11%減、過去最大の45億円の赤字、と不振が続いています。茶業経営も羅針盤がなくて濃霧の中を航海しているような海域に入ったような感じがします。

水出し煎茶(ティーバッグ) 80g(5gx16) 卸価格450円 30袋入

水出し煎茶が売れています。*原料は水出し専用の茶葉を使用しています。抹茶入

 

 

日本のわがまま運びます

 ヤマト運輸の「宅急便」が誕生したのは、今から40年前の1976年です。当時は企業の大口荷物を路線トラックで運ぶことが多く、個人が荷物を送るためには、6kまでは郵便局、6k以上の小荷物は国鉄の駅に持ち込みました。どちらも国営企業ですのでサービスが良くなかったことを覚えています。

1971年にヤマト運輸の社長になった小倉昌男は「大口荷物を一度に運ぶ方が合理的で得。小口荷物は集荷・配達に手間がかかり採算が合わない。」というそれまでの業界の常識を破り、小口貨物に参入します。競争相手の郵便局と国鉄の2社はサービスも悪く、荷物を持ち込まなければ受け付けてくれない。ここへ参入すれば必ず成功すると確信したのです。電話一本で集荷、翌日配達、運賃は安くて明瞭、荷造りも簡単、というコンセプトの商品「宅急便」が誕生したのです。開業初日の荷物は11個だけだったそうですが「サービスが先、利益は後」の理念のもと取扱個数は徐々に増えていきました。そして1991年に表題の「日本のわがまま運びます」のテレビCMを流します。そして「お客様第一」に応えるためにきめ細やかなサービスを実行して、小口貨物の取り扱いのシェアを確実に拡大していきます。お客様のわがままを叶えるために「スキー宅急便」「ゴルフ宅急便」代金回収の「コレクトサービス」「クール宅急便」「宅急便タイムサービス」「クロネコメール便」は18年後に廃止されましたがそれに代わる「クロネコDM便」「ネコポス」など次々とお客様のニーズに応えてきました。現在の取扱個数はヤマト運輸が19億個、2位の佐川急便が12億個、3位が日本郵便、上位2社で市場シェアの77%超を占めます。主役はアマゾン・楽天などの通販企業です。ネット通販の普及に伴う荷物の急増にドライバーの補充が追いつかずパンク寸前です。しかもネット通販は再配達や夜間配達が多く現場は疲弊しています。そこで配達の時間指定を見直し、料金を見直し、新たに1万人を採用して人件費を160億円引き上げる対策を打ちます。どこかで採用が増えれば他では深刻な人手不足になり、いっそう厳しい人手不足に直面する企業や産業も出て来るでしょう。今後は運送各社とも運賃値上げ交渉を続ける意向ですが、ネット通販企業との価格交渉は、厳しいせめぎ合いが予想されます。

いつでも欲しい物が注文一つで玄関先まで届く。そんな便利な日常を支えている配達の現場では、ネコの手も借りたいほど人手不足が深刻化して、長時間労働が常態化しています。各社は利便性と負担のバランスを考え始めました。「日本のわがまま運びます」を旗印に急拡大した宅急便も、わがままが過ぎて過剰なサービスを当然のように思ってきましたが、そのサービスが限界にきて転換点を迎えているのです。

「お客様は神様です」の言葉をつくったのは歌手の三波春夫です。彼が伝えたかったことは舞台に立つときは雑念を払ってお客様を神様と思って神前で祈るときのように澄み切った心にならなければ完璧な芸をお見せすることができないとの信念がつくった言葉のようです。しかし、彼の意図とは別に売る側も買う側も都合の良い「神様」をつくってきました。売る側は業績を伸ばすため、競争に勝つために神様をつくり無理なサービス競争に邁進しました。消費者は神様のふりをして各社のサービスを比較して受け入れてきました。いつしか買う側のお客様は絶対正しい神様になり、売る側はお客様を喜ばせるということが絶対条件になりました。しかし、このきめ細かなサービス競争は転換点に来ています。当たり前と思っていた便利さや安さが実は行き過ぎていることはないだろうかと考え始めました。現在社会で起きている様々なことを教訓に、社会の仕組みを考え直す時が来ているようです。