深蒸し茶

2016年3月 茶況_No.319

平成28年3月25日

茶園では近づく新茶に向けて化粧ならしを終え、芽出し肥料の施肥などの管理作業を続けています。毎年同じ茶園で実施する定点茶園の萌芽調査も始まりました。これから雨も適度にあり気温が上昇すれば生育は早く進みます。しかし、温度が上昇した後の寒の戻りを警戒して防霜ファンの点検は欠かせません。開始時期は昨年並みの4/21(大安)~4/23(先勝)頃になりそうです。これから施肥や茶園巡回をしながら、機械整備や工場清掃作業を進めていきます。雨で管理作業が中断する日は、農地の集積や共同管理など経営強化の勉強会を開いて、今後の工場運営について皆で話し合います。リーフ茶需要の減少から価格が低迷し、不耕作茶園が増えて減産を招く悪循環に何とか歯止めがかからないか議論は尽きません。安全・安心なお茶を製造するためJ-GAP取得に向けてアクションをおこしている工場もあります。

産地問屋は生産農家や消費地と情報交換しながら一番茶の仕入計画を立てています。急須で入れる上級茶は少量あれば間に合うという問屋が多く、主力は3500円以下の価格帯になりそうです。そして、価格が下へ下がっていくほど必要になる数量が増えていくという現在の状況です。現時点での産地在庫は過不足なく適正で、問屋間の荷動きは、ほとんど見られません。粉茶・棒茶の出物類は、若干の荷動きがあります。各地域で「抹茶やかぶせ茶の生産」や「茶の輸出について」や「茶の効能と茶の魅力のPR方法について」などの講習会が開催されていますので、付加価値をいかに付けるかを模索しながら勉強します。

厚生省は食品衛生管理の国際基準「HACCP(ハサップ)」の認定取得を国内の食品製造業者に段階的に義務付ける方針を決めました。HACCPは製造工程で異物混入や健康被害を引き起こす恐れのある危害要因を継続的に監視し、記録する管理システムです。2020年東京オリンピックやTPP発効を控え、諸外国から衛生管理を強く求められる事態を想定して国内での対応が必要と判断しました。HACCPに対応できない工場は商談のテーブルにつけない、商談ができない状況になります。そのため各産地問屋はHACCP対応に忙しくなりました。

消費地では新茶の販促計画を進めながら、春の大感謝祭を実施しているお店もあります。昔は商品を確保し売場をつくれば売上が上がりましたが、現在は商品を陳列しているだけでは売れるものはごくわずかです。お客様が買ってくださる理由を見つけ提案する必要があります。そのためにも立春から数えて八十八日目に摘み採った貴重な「八十八新茶」の案内と呈茶に力が入ります。そして居心地の良さを提供し続けて地域定番のお店を目指します。「茶業界」初代主幹の倉本長治氏の「店は客のためにあり、店員とともに栄える」という言葉を事務室に掲げて実践しているお店もあります。

消費が冷え込んでいるため、客数の減少と人手不足は、どの業種でも共通の悩みです。経団連会長は定例会見で需要喚起策は絶対に必要であり、新たな財政出動を打ち出すように政府に求めました。2年近く消費が活性化していないと指摘し、財政出動を含めた景気刺激策が不可欠との見解です。

 

 

ミレニアルズとフィンテック

 昨年8月の産地情報にて「ミレニアルズ」のことについてふれましたが、買い物はネット、情報はスマホなど、今までの世代とは消費行動が違うために対応に苦戦する企業が出始めていることをお伝えしました。1982年~2000年に生まれたミレニアルズが、1946年~1964年に生まれたベビーブーマーの人口を抜きました。大手小売企業の現在のあり方はベビーブーマーによって定義されてきたと言っても過言ではありません。彼らの後を追うように郊外に集中出店し、彼らのニーズに沿うことで成長してきました。しかし、現在はこの世代の高齢化が進み、先頭である46年生まれは70歳を超え、最後尾の64年生まれも50歳を超えました。社会はいま大きな転換点を迎えているのです。米国でも同じ現象がおきていて、ミレニアルズの動向に対応が遅れた家電量販店の「ラジオジャック」や450店舗を有するスポーツ用品チェーン「オーソリティー」が経営破綻しました。グローバル化が進み、個人が世界中のネットワークに繋がっている現在はFacebookやTwitterやYoutubeなど、情報はネットで効率的に収集し発信します。今までのように新聞やテレビ・固定電話を媒体としません。使用するのは携帯電話だけで、端末サービスを使いこなす新たな世代が将来の舵を取る時代にさしかかっているのです。彼らはソーシャルメディアという枠内で様々な情報をシェアしたりして共感を得ることで、ある種の自己顕示欲を満たしているといえます。この世代は16歳から34歳と、まだ若い消費層ですから、これから数十年間は消費者としてグローバルな社会現象をリードしていく世代となります。

多くの大手小売企業の成長が鈍化し、改革を模索している理由の大半がミレニアルズの台頭にあります。ミレニアルズは、不動産に夢を持つ見方に対して懐疑的な最初の世代と言われています。初婚年齢が遅くなり、子供を持つ必要がないと考える人も多数います。彼らは都市圏に住む傾向が強く大手小売企業は小型店舗の開発に取り組むようになりました。二子玉川アライズなどのようにコンパクトシティー化する傾向です。彼らの健康意識の強さが食品販売やレストランメニューに影響を及ぼし、デジタル志向がEコマース(電子商取引)を後押しします。タクシーやレストランはスマホで予約。中古マンションの情報もスマホで仕入、売買をネットでする人もいます。預金の管理や出納も銀行より24時間営業のコンビニ端末を利用します。最近よく耳にするのが「フィンテック(FinTech)」という言葉です。IT技術を使った新たな金融サービスです。スマートフォンやビッグデータなどの技術を使った便利な金融サービス(決済・送金・口座管理)が次々と生まれています。決済サービス「アップルペイ」はクレジットの情報をiPhoneの中に入れてカードを持ち歩く必要がないようにしました。従来家計簿を付けるためには銀行通帳やレシートとにらめっこしながら手書きで付けていましたが、アップルペイは履歴を集計して自動で家計簿を付けてくれます。外食産業ではレジの代わりにipadを使用して、売上データを集計したり、経費等を入力して会計処理をするところもあります。インターネットを通して小口資金の借り手と出資者を仲介する金融サービスもあります。過去の返済実績や現在の負債をコンピューターが審査して出資者は貸すか否かを判断します。個人の生活や社会の取引慣行などを大きく変えようとしているミレニアルズとフィンテック。ベビーブームからミレニアルズへ、そしてフィンテックへと大きな変動の中で、既存の小売業にとっては、変化への対応力が試される時が来ています。