深蒸し茶

2016年2月 茶況_No.318

平成28年2月27日

茶園では新茶に向けて茶園管理をする生産者の姿が見られます。春肥の投入や改植作業も始まりました。昨年は静岡4%減、鹿児島8%減と生産量は過去最低の7万9千トンとなりましたが、不足感なく現在まで来ました。生産減になっていますが、それ以上に消費減が進んでいることの証左でもあります。需要低迷で生産量と茶価も低迷し、農家の高齢化も重なって摘み取り面積も減少して生産減が当たり前の時代を迎えました。一方、健康志向を背景に緑茶輸出は伸びています。県内で開かれる輸出向けセミナーはどこも盛況です。農水産省がまとめた2015年の緑茶輸出実績は数量が17%増加、金額が30%増加の101億円と、近年は数量・金額ともに大幅な増加が続いています。セミナーの講師は「限りある市場に日本中の業者が押し寄せて価格競争になってしまっている。ただ茶を送るのではなく、日本茶の知識を持って市場を拡大することが重要」と情報発信の重要性を指摘しました。輸出先は金額ベースで米国40%、ドイツ13%、シンガポール9%の順です。しかし、成長分野に育てるには、まだいくつもの高いハードルがあります。それぞれの国の残留農薬基準、国別の表示基準など、課題の明確化と解決の方法が求められています。

産地問屋は生産農家や、消費地と情報交換を進めながら一茶の販促計画と仕入計画を練っています。産地は5月が繁忙期となりますので2月決算の商社が多く、在庫状況を把握して戦略を立てます。現在の在庫状況は過不足なく適正で新茶を迎えられそうですが、2015年の売上は5%減位が普通のようです。近年は組合を退会したり、取引先減、売上減から廃業を決める商社も出るなど厳しい時代を迎えています。

消費地では新茶シーズンに向けた予約新茶のしおりやチラシなどを発注してダイレクトメール発送の準備を進めています。お茶を急須で入れる習慣が年々薄れ、ティーバッグや粉末茶を増やした商品構成に見直していますが、前年並みの売上を確保することは至難です。売上減にともない経費削減に努め、存続を図りますが、廃業を余儀なく選択する小売店も出ています。茶園が減り、生産者、産地問屋、消費地小売店と徐々に業界が縮小していくのを感じます。しかし、衰退は茶業界だけではありません。シャープは台湾の鴻海の傘下に入り、東芝はリストラや部門別売却で生き残りを図ります。和民などの外食産業も資金不足や人手不足など厳しい状況が続きます。

1・2月の景気ウォッチー調査によりますと術角景気は悪化し、株価下落、輸出低迷により消費意欲が減退していると発表されましたが、先の景気見通しにも明るい材料は見られません。

原油安、株安、中国経済の減速、回復しない個人消費、人手不足など国内外ともに経営環境は厳しく、景況減は足踏み状態が続くようです。米国を始め、中国とユーロ圏の三つの経済がそれぞれ対応して不透明感を払拭しなければ明るい未来は見えてきません。政府の経済政策にも注視しながら市場創出や内需の掘り起こしなど攻守の戦略を再構築する必要がありそうです。

 

 

 

マイナス金利

 日本銀行が繰り出した「奇策」マイナス金利。時間を経るごとに副作用が目立ち始めています。日銀がマイナス金利政策という国内では初めての政策導入を決めたのは、銀行からお金を借りやすくするためです。企業が借り入れを増やして新たに設備投資をしたり、人々が住宅を新たに購入したりする動きを後押しする効果を期待したからです。結果は心配したとおり、人口減や低成長で国内企業の資金需要は弱く、将来不安で個人消費も拡大しないのが現実でした。国内に消費需要が乏しく、貸したくても貸せないというのは銀行の弁解です。審査基準を緩くすれば貸し先は見つかりますが、融資が焦げ付く危険が高まるため優良な貸し先が少ないというのが銀行の本音ではないでしょうか。政府で委員会を立ち上げ、検討する過程では、経済の活性化につながる可能性があると期待され、強い効果があると支持する意見が出る一方、金融市場への副作用が大きいなどの批判も続出し、政策委員の中で5:4と賛否が分かれました。黒田総裁はマイナス金利が「消費や投資を刺激し経済を支える」と説明しましたが、委員会からは「効果と副作用のバランスを欠き、設備投資の増加も期待しがたい」と懐疑的な意見も出ました。

欧州や北欧のデンマークでは2014年からマイナス金利を導入していますが、借りると利息がもらえる住宅ローンも登場して、住宅を買い求める人が急増したために政府は融資規制に乗り出しましたが、不動産・住宅価格は高止まりしたままです。資金を運用する年金基金などが、利益を確保するのが難しくなるとみて、国民からは「住宅ローン金利が低いのはいいけれど、逆に年金が減らないか心配」との声も出ています。

日銀がマイナス金利にした目的は二つあります。一つは円安誘導です。金利を下げドル金利との差が広がれば、円を売ってドルを買う動きにつながり円安になると踏みました。そして株安に歯止めをかける狙いもありました。もう一つは日銀にたまる銀行預金を市場に押し出すことです。しかし、円安誘導のはずだったマイナス金利政策が急激な円高を招き、株価も急落しました。長期金利も急降下し、2月9日に史上初めてマイナスとなり、金融市場が悲鳴を上げ大混乱に陥ったのです。主な要因は原油価格の下落(7割の下落)や中国経済の不透明感に加え、欧州の銀行不安、米国の景気後退感などですが、様々な不安材料が市場の中で意識されたためだと思われます。資源国や新興国の経済の混乱は日銀の金融緩和策だけでは完治しないことが表面化した結果です。日銀にとって、ここまでの円高や株安は誤算でした。

世界経済の不透明感が強まる中、より安全な投資先を求めて円や国債を買う構図になり、急激な円高や長期金利の異例のマイナスにつながりました。円高の流れが止まらなければ、稼ぎ頭の輸出企業の業績を悪化させ、春闘への悪影響が避けられず、個人消費の回復が一段と遅れることになりそうです。不安要因が複雑に絡み合い「負の連鎖」の序章とならなければいいのですが……。マイナス金利が引き起こした混乱はアベノミクスを過信している現実に、いいかげんに気付けとの警鐘かもしれません。