深蒸し茶

2016年11月 茶況_No.325

平成28年10月26日

秋冬番茶の生産が終了した茶園では整枝などの来年の一番茶に向けた茶園管理が進められています。また茶草場農法を実践している茶農家は、茶園の畝間に敷く山草を刈って茶草の確保に懸命です。茶草場は山の急斜面が多く、かなりの重労働となりますが、美味しいお茶づくりには欠かせない作業となりますので、多くの茶農家の方が懸命に取り組んでいます。農水省が発表した2016年の農業構造動態調査によりますと、農業就業人口は前年比8%減の192万人と200万人を割りこんだことが分かりました。26年前の1990年には480万人ですから60%減という就農実態です。高齢者の離農が進み、若者の就農が伸び悩み、農業の担い手減少に歯止めがかからないためです。団塊の世代で定年退職を機に就農が増えた65~69歳が前年比6%増となった以外は各世代とも軒並み減少しています。

第52回静岡茶品評会 入札結果

部   門 出 品 点 数 落 札 率 落 札 単 価
鶴印(4000円) 78(81)点 60(56%) 4582円(4503円)
亀印(2000円) 56(59)点 66(56%) 2392(2323円)

( )内は昨年の数字です

 

静岡茶入札販売会は88社(昨年85社)が参加し、落札率、落札単価とも昨年を上回りました。良い品質の仕上茶がお値打ちで落札出来ることもあり年々人気が高まっているようです。また、近年は荒茶仕入を減らして仕上茶を必要数量のみ仕入する問屋さんもあるそうですので、以前より仕上茶品評会の入札率が高くなっているようです。

静岡県茶業会議所は県茶業振興議員連盟に対し2017年度の政策要望を伝え、ますます厳しくなる業界に対しての支援を要望しました。①茶業者の経営などについて県独自の統計調査を実施する(茶業者の生産効率や経営状況に対する調査を、県内茶業の将来展望を描くために独自に調査すべき) ②有機栽培茶と抹茶の生産拡大支援 ③輸出促進の課題の早期解決(ポジティブリスト等) ④県製茶指導取締条例の改正(1956年に制定され、着味・着色を原則禁止し、フレーバー茶など花を混ぜる場合は県知事に届け出るよう定めている条例。制定当時とは食品安全基準が変わり、多彩な茶の製造を容易にするための改正を要望した)

消費地では朝晩の気温が低くなり、売れ行きが徐々に上向いているようです。今後は冬らしい寒さでリーフ茶需要が持ち直すとの期待もありますが、安いモノから売れるなど顧客の節約志向を指摘する声が目立ちます。天候不順と実質収入の目減りにより来客数が少なく非常に厳しい状況が続いています。

 

 

 

電通「鬼十則」

 

広告大手電通の女性新入社員が過労自殺した問題は、労働局が全社規模の立ち入り調査に乗り出す異例の事態となりました。全社的に違法な長時間労働が常態化している疑いがあるとみて「企業風土」に踏み込み調査を続ける構えです。1991年の若手社員の過労自殺で最高裁から企業責任が問われた後も、2013年に病死した男性社員が長時間労働による過労死として労災認定され、そして今回の過労自殺と同社の長時間労働が改善されていない実態が改めて浮かび上がりました。

理由の一つが異常とも言える労働時間です。残業時間が月に130時間を超えることもありましたが、自己申告に基づく会社の記録には69.9時間と労使協定で上限となる月70時間を下回るように上司から指導があったと見られます。東京大学を卒業した高橋さんは企業のインターネット広告部に配属されました。インターネット広告は新聞や雑誌広告が減る中で、毎年2桁成長を続け2015年の広告費は1兆2千億円に上ります。受注件数が多い割に利益は少なく、大量の広告を少人数で処理するのが当たり前になっていたようです。現場は常に人手不足で「できない」とか「時間がない」とか言いにくい状況にあったといいます。本人の日記からは「眠りたい以外の感情を失った」「毎日次の日が来るのが怖くて眠られない」「土日も出勤しなければならないことがまた決定し、もう体も心もズタズタだ」高橋さんの悲痛な叫びが聞こえてきます。電通の社員手帳には「鬼十則」と題された社員心得が記されています。

 

 

電通「鬼十則」

1・仕事は自ら「創る」べきで、与えられるべきでない。

2・仕事とは、先手先手と「働き掛け」て行くことで、受け身でやるものではない。

3・「大きな仕事」と取組め、小さな仕事はおのれを小さくする。

4・「難しい仕事」を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。

5・取り組んだら「放すな」、殺されても放すな、目的完遂までは……。

6・周囲を「引きずり回せ」、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天と地の開きができる。

7・「計画」を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。

8・「自信」をもて、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚味すらがない。

9・頭は常に「全回転」、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。

10・「摩擦を怖(おそ)れるな、」摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。

 

多くの企業が「仕事と生活の両立」を掲げる中、世界的な広告会社電通でさえ、古い企業体質が残されている様子がうかがえます。この「鬼十則」は1951年につくられた電通社内の行動規範ですが、同じ1951年に商業界ゼミナール創始者の倉本長治氏は「店は客のためにあり、従業員とともに栄える」という商業倫理を掲げ、正しい商いの実践と経営の精神の普及を目指しゼミナールを立ち上げました。そして「商売十訓」は、お客様のための店を志す商人たちの行動指針として生まれました。

 

商 売 十 訓

1・損得より先きに善悪を考えよう

2・創意を尊びつつ良い事は真似ろ

(創意と真似の二つの繰り返しが、店を成長させていく)

3・お客様に有利な商いを毎日続けよ

(心の満足を得られたときお客さまは喜ぶ。お客さまの笑顔が見られる商いを続ける。)

4・愛と真実で適正利潤を確保せよ

(儲けるという字は信者と書くように、信者をつくるのが本当の商売である。)

5・欠損は社会の為にも不善と悟れ

(税金を払えない欠損は社会のために不善なのである。)

6・お互いに知恵と力を合わせて働け

(知恵のある者は知恵を、力のある者は力を惜しみなく与える「心のありようが大切)

7・店の発展を社会の幸福と信ぜよ

(大切な社会的機能を担っている商売ほど世の中の役に立っている仕事はない。)

8・公正で公平な社会的活動を行え

(公正で公平で誠実な商売をすることにより人々の生活が守られ社会がつくらる。)

9・文化のために経営を合理化せよ

(商売が文化を促進するという信念を持ち、常に経営合理化の責任を自覚する。)

10・正しく生きる商人に誇りを持て

(商売に生きることが人間として正しく生きることと同じだと悟った時こそ、成功した幸せな商人となれる。それを胸に刻み、誇り高く生きよう。)

 

倉本長治氏は生前「慎重で誠意ある仕事、節度ある努力、愛情ある行為が経営の三大条件である」と言っています。倉本氏が生きていたら今度はどのように教示してくれるのでしょうか。則と訓の違いを辞書で調べてみますと十則の「則」はおきて、つまり電通の「鬼の十則」は「10のおきて」。十訓の「訓」は教え、つまり商業界の「商売十訓」は「10の教え」となります。電通では死ぬくらい働かなかったら生き残れないということでしょうか。報道では電通の体質が変われば全ての業種に及ぶほどの影響力があると強調しています。弊社の取引先の社長が言っていた「景気が下降し、競争が激化し、経営の厳しさが増している時代は心構えとして①今までよりもっと働く ②他の仕事に手を出したくなるが、じっと我慢する」の言葉が鮮明に頭をよぎります。鬼の十則、商売十訓、どちらを選択するかは、それぞれの経営者の考え方でしょうが、今回の事件は色々と考えさせられることの多い出来事でした。