深蒸し茶

2016年10月 茶況_No.324

平成28年10月1日

茶園では秋冬番茶の摘採が本格化しています。今年は引き合いが強く、生産は10月中旬頃まで続く見通しです。秋冬番茶は主にドリンク原料として使われますが、量販店の玄米茶やほうじ茶の原料としての需要もあります。使い手は一部の問屋に限られていますが、ドリンク関連業者は二番茶で不足した分を秋冬番茶で数量確保に動いています。相場は昨年より1割高の340円~370円で推移しています。農林水産省は2016年産の一番茶の荒茶生産量を発表しました。静岡県48%、鹿児島県29%、三重県11%の順で、静岡県はピークの1994年2.3万トンから今年の1.2万トンと約20年間で一番茶の生産量は半減しています。一番茶の取引価格が下がり農家の高齢化も重なって担い手不足となり、摘採面積の減少が続いていることが原因と分析しています。

産地問屋は情報収集を進めながら新市場の開拓に努めています。8・9月の出荷は20%減と今までに経験したことのない状況です。「どうなってしまったんだ」とぼやく声が声高に聞こえます。産地問屋間の取引も、棒茶・粉茶といった出物以外の取引はなく、静かです。これから各地区で品評会の入札会が開催されますが、入札結果が今後の茶況の判断材料として注目されます。

消費地では「秋の売出し」「蔵出しセール」を実施しています。8月は猛暑の影響による減、9月は毎日雨の日ばかりで人通りは少なく減と良い話は聞かれません。夏場はペットボトルの需要が増え、急須で入れるリーフ茶の苦戦が続きます。明るい材料として夏場の「水出し緑茶」の売上は順調ですので、冷蔵庫内から取り出して飲む冷たいお茶を、夏場だけでなく年間飲料として提案する必要がありそうです。

景気の先行き不透明感が高まり、消費者の節約志向は根強く再び低価格競争が広がって事業者が行き詰まるケースが出ています。景気回復の期待を込めた「ちょい高」消費ブームなどは、メディアがつくり上げた幻想だったともいえ安易に「ちょい高」ブームに乗ってやけどをした企業は数限りなくあります。ユニクロの2度の値上げによる失速、外食チェーンのの「プレミアムメニュー」の総崩れなど、振り返ればこの3年、アベノミクスに不用意に踊らされてきた観があります。一方、機を見るに敏な勝ち組系プレーヤーたちは、ここにきて一斉にデフレ対応型ともいえる低価格戦略にシフトしています。前出の「ユニクロ」は従来の値上げ路線から一転して値下げを敢行し、5ヵ月連続で増収を達成中です。ユニクロより低価格な「GU 」も大幅な増収増益を続けています。国内アパレル2位の「しまむら」も一時期の不調を脱して、同社らしいぶれない低価格路線が、改めて消費者に支持されているようです。逆に米ギャップ傘下の低価格衣料品店「オールドネイビー」は来年1月までに日本の全店舗53店舗を閉じて撤退します。価格、機能、デザイン、どれか突き抜けたものがないと日本の消費者の心はつかめなかった。「中途半端」で売れなかったと述懐しています。顧客からの「デザインがいまひとつ」「閉店しても大して困らない」といった手厳しい声がすべてを物語っています。低価格は当たり前の時代「低価格プラスアルファ」の追求こそが将来を勝ち抜く処方箋となりそうです。「なくては困るお店」地域密着の信頼してもらえるお店こそがこれからの小売店の生き残る道ではないでしょうか。

 

 

 

デフレ再来

 日本銀行はマイナス金利や国債の大量購入といった異次元金融緩和の「総括的な検証」を行うと発表しました。日銀の新政策は金融緩和の「量」から「金利」に軸足を移すもので、これによって金利・株価・為替レートが日本経済に好都合な方向に動くことが期待されていましたが、いまのところこれらの経済指標は、日本に有利な方向には動いていません。それどころか、日銀の新政策が狙った円安、株高のシナリオが崩れ、日本経済は円高・株安の方向に向かっています。そして、黒田日銀総裁の物価上昇率2%の公約は3年たった現在も実現していません。

追い詰められたアベノミクスに次の展開はあるのでしょうか。安倍首相は「アベノミクスは失敗したわけではありません。道半ばです。」と言うようになりました。この言い方には、思い通りにいっていないという焦り、失敗を必死に否定している様子がうかがえるといった声も聞かれます。アベノミクスの中核である日銀の金融緩和政策が限界にきているといった指摘もあります。その理由として、日本経済は消費者の先行き不安感と企業の日本離れによる設備投資の低迷により、需要不足に悩まされているからです。これにマイナス金利政策の追い打ちで消費者心理は冷え切りました。高齢者には年金、配当などを含む利子所得で生活している人が増えているからです。そして、若者や子育て世代が抱える将来への不安を指摘する声もあります。年金や医療などの社会保障関連費用も給料から天引きされ実感がないまま負担が増えているのです。非正規雇用の増大も将来への不安を加速させています。こうした状況が消費より節約して貯蓄しようとの心理に傾いているのです。

将来への支出増や不安に対する消費者への警戒感は根強く、負担と不安を回された若い世代の消費低迷を加速させる懸念があります。そこで消費者は必需品をいかに安く買うかを考え、1円でも安いディスカウントショップや100円ショップを利用するなど低価格志向は続いていて、日本経済が再びデフレ時代に戻りつつある状況なのではと危惧されているのです。外食業界も低価格メニューが増え、デフレの様相が強まっています。2013年ごろはアベノミクス下の景気拡大に乗る形で高価格帯メニューの充実を図り、客単価を引き上げてきましたが、消費者の節約志向が高まる中、高付加価値路線は行き詰まりを見せ、客数が減少したことから、各社は低価格商品の投入に動き出し、個客呼び戻しに躍起になっています。日本マクドナルドは400円の「バリューランチ」、吉野家は330円の「豚丼」、松屋は500円の「とんかつ定食」などランチはワンコイン以下が当然のようになり、風向きが変わってきています。しかし、業界ではデフレ期に泥沼の値下げ競争に陥った苦い記憶があること、そしてパートやアルバイトの人件費上昇が続いていることから、節約志向を強める消費者マインドとのギリギリの接点と、コストをにらみながら難しい価格戦略が求められています。人口減少と少子高齢化で競争は止まるところを知らないように激化するばかり、生き残る場所は狭まる一方です。財布のヒモは依然として固く、再び低価格競争が広がりつつあります。

実収入の低迷に伴い、消費支出は減少し「デフレ再来」ともいえる事態に直面する日本経済の中で、今後共緩やかなデフレを前提とした、独自に収益を挙げるモデルを確立することが、勝ち残りの必須条件になると感じるようになりました。