深蒸し茶

2016年1月 茶況_No.317

平成28年1月26日

2016年の新年を迎えた茶園では茶農家の方が寒肥(かんごえ)などの冬の管理作業を進めています。同時に2月から始まる春肥の準備も進めます。昨年の茶業界は生産減、消費減、単価安と様々な案件が目まぐるしく通り過ぎた1年でしたが、新年の茶園は何事もなかったように泰然自若として、世相とは一線を画し一喜一憂しないで物事に動じないさまを見せています。私も茶園巡りをしながら、市内を中心に色々な茶園を歩いて見て来ましたが、管理されていない耕作放棄茶園の多いのに驚かされました。乗用型摘採機が入らない傾斜のきつい茶園はもちろんですが、市外におきましては平らな茶園でも販売に苦労し、採算割を余儀なくされている地区は、後継者もなく管理放棄の茶園が目立ちました。掛川地区の茶園は「深蒸し掛川茶」「茶草場農法」のブランドが確立されてきましたので、他地区に比べますと恵まれています。今年から茶を別の作物に転換した農家には補助金が出る新たな制度もスタートしますので荒廃茶園、転作茶園が益々増えて生産減が加速する時代に入ります。茶の需要を増やさなければ根本的な解決策にはならないとの見方も根強くありますが、その購入数量が総務省より発表されました。昨年の11月一世帯当たり緑茶購入量は17%減の65グラム、1~11月の累計では数量が8%減の747グラムで減少傾向に歯止めがかかりません。08年に1キログラムを割り、12年以降は900グラムを割り込み減少傾向が続いています。

掛川市倉真地区にある倉真製茶㈱は倉真製茶農協を清算して2014年会社組織に移行しました。清算時の出資金や剰余金の処理問題、組合員の意思確認や意思決定制度の違いなど、たくさんの問題はありましたが、組合員の気持の統一や専門家によるアドバイスを受けて元気よくスタートしました。意識の高い人だけが集まってやることで生葉・荒茶の質も上がったと報告されています。放棄茶園を会社で借り受けて管理する茶園管理グループも立ち上げました。不足する人手は定年退職した地区内の人達に声を掛けて管理作業を一緒にこなします。地区全体の雇用にもつながり、地区が明るくなり、地区全体に活気が出てきたと好評です。これからの農業モデルの1ケースとして注目されています。消費地では年賀商戦も終わり、家庭用茶の販売に努めていますが、緑茶消費の微減傾向が続き元気が出ません。このところの雪で来店客の減少が追い打ちを掛けます。茶業界はこの10年で消費量と販売力が低落しています。一年ごとでは小さな変化ですが、積み重なって大きな低下になってしまいました。本気で構造改革を進めないと茶業界は消滅します。そして、もう失敗は許されない立ち位置に立っています。厳しい状況に備えるため、企業トップの年頭のあいさつは懸念する声が多く聞かれました。「考慮しなければならないリスクは複数存在している」みずほグループ、「一層のコスト削減や財務体質の改善に取り組む」新日鉄、「過去の理論はもはや通用しない」「勝つか負けるかの時代を過ぎて生きるか死ぬかの時代に入った」セブン&アイ、どう生き残るか他人依存ではなく自主独立で挑戦するということを忘れてはいけないと、覚悟を決めた発言が目立ちました。

 

 

 

見ざる 聞かざる 言わざる

 2016年 申(さる)年のスタートです。相場の世界では「未(ひつじ)辛抱・申(さる)酉(とり)騒ぐ」と言われ申(さる)年は大波瀾の年と言われています。年明けから日経平均株価は大荒れし予測がつきません。昨年は中国ショックはありましたが、辛抱の一年で何とか乗り越えましたが、今年は原油安もあり大発会から早くも大騒ぎです。そして世界経済の先行き不透明感から、今年の経済環境は予測が大変困難との発言が目立ちます。一方、夏の参院選を控え、安倍政権が景気のてこ入れに動くとの見方も根強くあります。民間企業の経営トップの年頭挨拶では、構造改革への決意を新たにし、事業の選別を継続的に行い、改革の重要性を強調しましたが、リスクは複数存在していると懸念しています。

「見猿、聞か猿、言わ猿」は日光東照宮の3匹の猿が両手でそれぞれ目、耳、口を隠している姿が有名です。目は人の非を見ない、耳は人の非を聞かない、口は人の過ちを言わないということを表しています。日光東照宮の三猿(さんえん)は江戸時代初期の左甚五郎作と伝えられています。日本語の語呂合わせから日本が三猿発祥の地と思われがちですが、3匹の猿というモチーフ自体は古代エジプトやアンコールワットにも見られるもので、シルクロードを伝い、中国を経由して日本に伝わったようです。そして、東南アジアを経てアフリカ、ヨーロッパ、アメリカにまで広がっています。インドのガンジーは常に3匹の猿の像を身につけ「悪を見るな、悪を聞くな、悪を言うな」と教えたとされています。米国情報機関の施設の出口には「ここを出るとき、君たちの見たこと、聞いたことを持ち出すな」と3匹の猿の警告板があるそうです。イギリスではカフスボタン、イタリアでは電気スタンドのデザインに取り入れられ生活に溶け込んでいますが、偶像禁止のイスラム圏にはないそうです。

日本では昔から、猿マネ、猿知恵など例え話には猿を小バカにしたものが多く、「猿カニ合戦」もいじわる猿は敵討ちされています。しかし、孫悟空の大活躍など猿信仰も根強くあり、猿のあだ名から天下統一を果たした太閤秀吉の話や、猿は去るに通じることから災難が去るとして尊ばれた面もあります。また、江戸時代中期に出版された「三猿金泉秘録」には「三猿とは見猿、聞猿、言猿の三なり。目に強変を見て、心強変の淵に沈むことなかれ、只心に売を含むべし。耳に弱変を聞きて心弱変の淵に沈むことなかれ、只心に買いを含むべし。強変、弱変を見聞くとも人に語ることなかれ、言へば人の心迷わす。是三猿の秘密なり。」と乱高下する相場時の心構えを説いています。

アベノミクスで上がった株価は一進一退を繰り返し、景況感にも足踏みの色が濃くなってきました。中国経済の減速や原油安など世界経済の先行きも不透明さが増しています。今年の景気をどう予想するかと問われたスズキの鈴木修会長は「成長する理由は何もなく、横ばいとみておけば間違いないだろう。みんな危機感が足りな過ぎる」と答えています。5年後、10年後を見据えた対策と並行して、現に直面している変化、課題に即応することを求められています。時代の動きは激しく、今年が「猿の木すべり」にならないように願うばかりです。