深蒸し茶

2013年2月 茶況_No.286

平成25年2月21日

生産者は春に向けた茶園管理を進めながら、各地で開催される研修会に積極的に参加しています。そして、実態に即した構造転換を図り、収益が確保できる経営体質に脱皮できるように改革を進めます。掛川市東山地区では世界農業遺産登録に向けた取り組みをしています。秋冬期に茶園周辺の茶草場のススキやササなどの草を刈り茶畑に敷く伝統的な農法です。敷草をすることにより、養分豊富な土壌にすることや、土の乾燥を防ぎ、茶園に雑草が生えないようにする役目もします。「茶草場」の山草を刈ることにより、太陽光が差し込みますので絶滅が危ぶまれるキキョウなどの秋の七草が生育し、生物多様性の保全に大きく貢献しています。「里山の資源を生かして、今後の農業を考える時、示唆に富む」と高い評価を得ています。

産地問屋は在庫調整を図りながら仕上げ発送作業を進めています。総務省家計調査によりますと、昨年の一世帯当たりの緑茶購入量は調査を始めて以降初めて900gを割り込みました。茶葉需要の低迷は産地問屋の売上減少や在庫過多の要因となり、今季の新茶取引に影響を与えそうです。「今年はさらに慎重な仕入姿勢になるのでは」といった茶業者の厳しい声も聞かれます。

消費地では新茶前の売り出しの準備と新茶商戦に向けた企画を練っています。「どうしたら買ってもらえるのか、消費者目線で考えなければ」と企画に取り組む姿勢は真剣です。高齢社会へ入り、ビジネスの世界では「シニアシフト」が求められ、その対応は待ったなしの課題となっています。シニアビジネスの基本は「不安・不満・不便」の不の解消、その中に商機ありとみて取り組みます。県立大学教授の岩崎先生は小売店は「提案力」を磨くようにと指摘しています。昔は百貨店で買うのがステータスだったが今は大型専門店で、ネットで、買う時代。小売業は新しいライフスタイルを提案すること、新しい「モノや情報」、「流行や楽しさ」などの時代を先取りする、顧客の一歩先を行く提案をすることは不可欠と説きます。県内の西武沼津店の撤退が決まりました。沼津市は商圏人口も十分あり、百貨店が成り立たない都市ではありませんが、建物が老朽化しており、革新が進まない百貨店から消費者、特に若者離れが閉店した要因のようです。個々の企業や商店が輝かなければ地域は元気になりません。今回の閉店が沼津エリアの新しい時代の商業をつくるきっかけになればと問題提起した形です。 中心市街地からの若者離れ、新しい時代の商業といえばFBA(フルフィルメント・バイ・アマゾン)という新たな仕組みが注目されています。アマゾンの物流センターに店側が、あらかじめ商品を預けておく。(通常の出店料に加え、保管日数に応じて料金がかかる)。注文を受けるとアマゾンが物流センターから発送する。ユーザーは送料がかからず、翌日に届く「安い早い」の買い物の便利さに慣れてしまいました。アマゾンの売上は今や7900億に届くそうです。購入する道具として利用されているのがスマートフォン(スマホ)。スマートフォンは通信機器・情報端末としてだけでなく、買い物する道具として利用され始めました。アマゾンが発売した電子書籍「アマゾンキンドル」は読書もできますが、アマゾンの通販サイトへも接続しています。「安い早い」に加え欲しいと思ってから注文するまでの手間が掛からない。この手間が掛からないという価値が今後、買い手にも売り手にも、じわりと効いてくるような気がします。流通は大きく変化しています。

需要をつくり出す正念場

 

新聞紙上に心臓が止まるのではないかと思うほどのショッキングな記事が連続して掲載されました。一つ目は急須で入れるリーフ茶の消費減退に歯止めがかからないという記事です。2012年の一世帯当たりの緑茶購入量は前年比8.7%減の892グラムと初めて900グラムを割り込み、消費者の茶離れが加速する事態が浮き彫りになったという内容です。「急須で飲もう」という業界目線での訴えだけでは消費者の心はつかめない。高級茶が大量に売れる時代は終わった。家計調査の結果が厳しい現実を裏付けたと解説しています。二つ目の記事は朝日新聞の「天声人語」です。「料理教室の先生に急須を『これ何んですか』と聞く受講生がいたという。高校の家庭科教諭が生徒にアンケートしたら、冬に家で飲むお茶を急須で入れると答えたのは2割しかいなかった。授業では急須を直接火にかけようとする生徒もいたという。市販の飲料は手軽でいいが文化や歴史をまとうお茶と無縁に子らが育つのは寂しい。「客の心になりて亭主せよ。亭主の心になりて客いたせ」と言ったのは大名茶人の松平不昧だった。いれてもらったお茶は粗茶でも心が和むものだ。コンビニエンス(便利)と引き換えに大事なものをこぼして歩いているようで、立ち止まりたい時がある」。三つ目の記事は「女性経営者の会」の初会合の時の話でした。「出席したメンバーから緑茶の消費実態についての厳しい意見が目立った。飲食店を経営する女性からは『友人と喫茶する時、選択肢はコーヒーか紅茶。日本茶は認知度が低い』との指摘がありました。別のメンバーからは『茶ガラの処理などエコへの対応を意識するような、現代の生活様式に合った商品が少ない』との提言もありました」。との内容です。四つ目は新聞記事ではありませんが、掛川にある小学校3年生を対象にしたアンケート調査の結果です。学校の授業で「家でよく飲むお茶」を158人に聞きました。結果は麦茶83人、緑茶58人、紅茶8人、その他となっています。家でよく緑茶を飲む子供は3人に1人という結果です。小学3年生が対象ですから、お茶を自分で入れるということはなく、たぶんお母さんが用意してくれたものを飲んでいるのだと思います。若いお母さんたちは、家で急須でお茶をいれる習慣がなく、市販のドリンク、あるいは家で作った麦茶を冷蔵庫へ作り置きしているのだと思われます。この四つの事例は極端な事例かもしれませんが、最近の茶業界の売上低迷をみますと、時代は大きく変化していることに気付かされます。

経済学の第一章は価格は需要と供給の関係で決まると書いています。需要が強含みであれば価格は上がっていくし、逆に需要が弱含みであれば価格は下がっていきます。モノの価格が下がるデフレは需要が少ない状況なのです。この流れを変えるために経営者が考えなければいけないのは需要をつくり出すことです。つまり、需要の創造にこそ取り組んでいくべきなのですが、新しい需要を創出することは、それほど簡単な話ではありません。それでもよく見てみると、いろいろなところに潜在需要があることに気付きます。たとえば、今後は少子高齢化で国内のマーケットは縮んでいきますが、見方を変えれば、その中で起こる食生活の変化や女性の社会参加の増加による時間割の変化などは需要創造のチャンスになってくると思われます。経営学者のP・Fドラッカーは「企業の役割は顧客の持つ潜在的な欲求を有効需要に変えることだ」と言っています。これこそが今、私たちが目指すべき方向ではないでしょうか。お茶自体への消費者の印象は決して悪くはありません。「業界目線」から「消費者目線」に立ち返り、今まで構築したすべての構造を早急に見直す岐路に立っています。3年後、5年後、10年後の業界の見通しをどれだけ立てられるのか。大きな局面を迎えていますので、後手に回ったり、あさっての方向に行ったりすることのない経営者の先見性が問われています。