深蒸し茶

2012年8月 茶況_No.279

平成24年8月1日

茶園では日中の厳しい暑さを避けて、朝夕の涼しい時間帯に施肥や防除などの茶園管理を進めています。一茶・二茶と2回の摘採も終わり、茶の木も衰弱していますので、回復に向けて茶の木に力のつく管理が大切になります。今年は売上不振による一番茶の相場低迷、二番茶の台風被害による減産と非常に厳しい状況で、ほぼ年間生産が終了しました。茶業の将来を考える時、不安を口にする生産者も数多くいます。昔はお茶農家で経営が成り立ちましたが、現在ではレタスや山芋やニンニクなどの農産物を生産している茶農家も珍しくありません。お茶収入と合わせて、経営の多角化を図り経営を継続することも必要になってきました。

産地問屋は消費地営業を強化して販売促進に努めています。6・7月は何とか前年並みを確保できましたが、猛暑の関係からか問屋間の取引はほとんど見られません。お陰様で「水出し煎茶」は順調に伸びています。

消費地では「中元商戦」も終わり「帰省土産」の対応を進めています。連日の暑さで商店街の人通りも少なく、夕方から人通りが増え始め活気を取り戻します。コンビニエンスストアーでもファーストフード店でも立地条件はそれほど変わりがないのによく客が入る店、入らない店と売上実績は店によって大きな差があります。チェーンストアでは提供する商品、価格は基本的には同じですから、お客の入りが違ってくる決定的な要素が何かあるはずです・・・。チェーンストアか単独店か、小さなお店か大きなお店かは関係ありません。一言で言えば「お店は店長次第」です。店長が中心になって「誰に何をどう売るのか」を決め働くすべての人がその方針に基づいてお客様に接しているお店は好成績を上げています。方針がその地域に合わなかったり、時代の流れとずれていたりするとお客様が集まらず、売上も上がりません。「店は客のためにあり、店員とともに栄え、店主とともに滅びる」とは商業界の創始者、倉本長治氏の教えですが、去年も今年も、昨日も今日も同じことをしていたらお店は必ず滅びます。お客様のために何をして、どうお迎えするかを考え、店員とともに実践し変革を続けていけたら、お店はきっと伸び続けるはずです。自らの強みと違いをハッキリとさせ、さらに磨きをかけて地域一番店に、業界オンリーワン企業にならなければ、将来は立ち行かなくなるような気がしてなりません。

日本はすでに縮小社会に入りました。国内の消費の増大は期待できません。国内を主力にする仕事はますます苦境に追い込まれて行きます。自動車や家電などの製造メーカーは海外で造り海外で売る路線転換をしています。流通業も資生堂・ユニクロ・ヤマダ電器・コンビニなど海外販売のシェアが高くなっています。日本は年金減少・人口減少・所得減少・高齢化がますます顕著になり、規模の競争は次第に通用しなくなっています。超大型店が大駐車場を用意して大量商品と低価格を武器に勝負してきましたが、時代とともにそれも曲がり角を迎えています。最大のライバルはネット販売です。ネット販売に顧客を奪われて、その広さが価値を失いつつあるのです。ネット販売は大駐車場や建物を用意しなくてもいい分、価格を大型店よりさらに安く設定していますので家電製品などもネット販売へのシフトが進んでいます。米メディアはその外観を指して「ビッグボックスの死」と表現していますが、店舗面積を一気に縮小はできませんので、時間を掛けて対応していくしかないのが現状のようです。

 

次の決め球

 

今年のお茶の生産も秋冬番茶の製造を残してほぼ終了しました。すでに終了した1・2番茶についての反省点も色々出されています。その中で期待された今年の相場も期待外れだったとの声が聞かれます。お茶の相場はどのような要素によって成り立っているのでしょうか。大きくは次の要素が絡み合っていると私は思います。①繰越在庫が多いか少ないか②その年の製品の出来具合③生産が増産か減産か④今年の売れ行き予想・・・の4つです。今年は繰越在庫がほとんどありません。製品の出来具合は昨年にくらべますと見劣りしますが、冬場の冷え込みにより茶の木の休眠が十分に取れ合格点です。①②までの状況は良かったのですが、③の生産量は10%前後の増産により供給過多となった。④は風評被害・景気低迷と生活様式の変化による売上不振。③④の状況がマイナス要因です。

お茶を取りまく環境は大きく変化しています。急須のない家庭や常にポットにお湯が沸いていない家庭、ペットボトルのお茶を冷蔵庫から取り出して飲む家庭など生活様式の変化、飲み物の多様化、低価格志向もリーフ茶にとっては逆風となっています。大手電機メーカーのパナソニック・ソニーは大幅な赤字により人員削減を進めています。円高とタイの洪水被害も要因になっていますが、一番の原因は技術革新・新製品開発、経営革新が遅れたことです。テレビは韓国のサムスンに負け、通信機器は米のアップルに大きく水を開けられました。人々の欲しい物は大きく変わり、市場の変化に対応できなかったからです。技術立国日本に技術がなくなったら退場するのみです。逆にトヨタはハイブリット車への対応を早くから進めたため、世界的な支持を集め健闘しています。世界を見回してもトヨタのハイブリット車に勝る技術を持った車は見当たりません。将来を見据えた対策と戦略がいかに大切かをトヨタは教えてくれました。トヨタ以外にも世界に誇れる日本の技術は数多くあります。オリンピックの100m競技ではボルトが金メダルを取るのか、人類初の9秒58の壁を越えられるのかがたいへん注目を集めていますが、もうひとつ世界が注目しているものがあります。それは瞬時に決まる決定的な瞬間を撮り逃さない撮影に、どのメーカーのカメラを使用するかです。この競技場でプロのカメラマンが使用しているカメラはキャノンとニコンしかありません。記録達成の瞬間を確実に撮るカメラ技術は、この二機種が最も優れているからです。キャノンの望遠レンズの色は白、ニコンの色は黒。競技場にどちらの色が多く並ぶのか、100m競技と同じくらい世界が注目しています。

茶業界も消費低迷・売上不振による相場低迷を嘆いてばかりはいられません。将来を見据えた対策と戦略が、今こそ必要かつ急務なのです。新技術・新商品の開発、新市場・海外市場の開拓や経営革新などやらなければいけないことは沢山あります。48歳まで現役で投げ続けたプロ野球の工藤公康投手は現役時代、西武のエースだった東尾投手に「真っすぐが通用するうちに、次の決め球を覚えておけよ」と助言され、30年近く現役を通すことができたそうです。現在、日本茶は生活様式の変化、飲み物の多様化などにより存亡の危機を迎えています。茶業界の「次の決め球」は何なのか、そして各お店の「次の決め球」は何なのでしょうか。早急に「次の決め球」を考えないと日本茶の、そして各お店の将来はありません。皆様の素晴らしいアイデアをお待ちしています。