深蒸し茶

2012年2月 茶況_No.274

平成24年2月7日

茶園は例年にない厳しい寒さに耐えています。久し振りの雨に茶園の土も潤い園相は良好です。生産農家は茶園管理に気を配り、2月中旬から始まる新茶期に向けた春肥投入の準備をしています。また、新茶シーズンに向けた情勢報告や研修会も各地で開催され、良質茶づくりを最重点として具体策を検討しています。①栽培履歴・製造履歴の記帳②工場の衛生管理と異物混入防止の周知徹底③適期適採の啓発④改植・新植・中刈更新の推進⑤奨励品種の導入などの振興策が中心です。

産地問屋は消費地と情報交換を進めながら商品開発や販売計画を練り、販路拡大に向けて前向きな対応に努めています。在庫は各社とも適正であり、問屋間の荷動きはほとんどみられません。総務省の家計調査によりますと4年連続で千グラムに達しない消費者のリーフ茶離れに歯止めがかからない現状が浮き彫りになり不安は隠せません。そして、今季の新茶取引での仕入数量への悪影響が懸念されています。静岡県は新たな需要喚起を目指し、若者や女性向けに新たなお茶の楽しみ方や、おしゃれな茶器の提案などを進め、静岡茶の消費拡大に努めています。

消費地では厳しい寒さの中、足元の悪い中、店頭に足を運んでいただくお客さまを迎える心構えに細心の注意を払います。地域にしっかり根付き、地元のお客さまに愛されるお店を目指します。お客さまの選択肢の中に入るお店にならなければとの強い思いからです。そして常にお客さまの声に耳を傾けることが欠かせないと頑張っています。贈答関連は平年に比べて落ち込んでいますが、家庭用のお茶の動きは期待以上のようです。これから予約新茶・新茶売り出しの企画の準備に入ります。

世界経済が混迷を深める中、日本もいまだ先行きの見通しが立ちません。TPP加盟の協議や消費増税の論議は動き始めましたが、明確な戦略は描けていない実状です。企業も国も瀬戸際の経営が続きます。今年は世界的な選挙の年です。1月の台湾選挙に始まり、3月のロシア、5月のフランス、11月のアメリカ、日本も春から夏が予想されます。選挙はありませんが中国でも秋には総書記の交代があります。リーマンショックを乗り越えたかに思えた世界は、欧州の債務危機によって「ユーロ崩壊」というシナリオも現実味を帯びています。ユーロ導入の壮大な実験は12年を経て曲がり角を迎え、対応を誤れば世界に飛び火しそうです。縮む市場を前に世界のリーダー達が損得だけで自国中心主義に走ったら、世界経済はさらなる混乱に陥りかねない状況です。世界では失業への不安を抱え、貧富の差の広がりに怒る人々が「反格差デモ」を繰り広げ街頭を占拠しました。若者がインターネットで仲間を広げ、世界経済を牽引する新興国にも影響が及び始めています。

日本では若者が抗議行動を起こしたという話はあまり聞きません。厳しい就職状況、将来への不安、年金問題など、不安を抱えている人々は増えているにもかかわらずです。日本の場合は格差の拡大というよりは全体的に所得が低下傾向にある、全般的な貧困化からかもしれません。問題は格差拡大というよりは、国全体を覆う貧困化、そして将来の貧困への不安拡大にあるように感じます。解消するために経済に活力をもたらす政策が不可欠です。市場の活性化、企業がより積極的に投資する環境整備、そして所得と雇用を引き上げて不安を取り除くことが今一番求められています。

 

変化するものだけが生き残る

 

写真フィルムで世界を席巻した米国を代表する名門企業「コダック」が経営破綻しました。デジタル化への対応が遅れ赤字経営が続いていたからです。1975年に自らが初めて開発したデジタルカメラの普及により、業績悪化が加速したとは皮肉な話です。ニューヨークのカメラ店からは「昔はフィルムが毎日100本以上売れたが、今では月に10本」と昔を懐かしむ声も聞かれました。

日本では電気大手7社が3月期の業績予想を大幅に下方修正しました。パナソニックは7800億円の巨額赤字、シャープは2900億円、ソニーは2200億円、NECは1000億と過去最悪の赤字見通しとなりました。中には1万人以上の人員削減を実施するところもあります。円高による韓国勢との競争激化、欧州の債務危機による輸出不振、タイの洪水被害などが業績を直撃したことは事実ですが、技術革新・新製品開発・経営改革が遅れたことが一番の原因であると言われています。テレビは韓国のサムスンに負け、通信機器は米のアップルに大きく水を開けられました。技術立国の日本が、技術がなくなったら終わりです。今や国内市場は縮小し、各企業は新興国での事業拡大にすがらざるを得ない状況です。欲しい物・低価格・経済状況は大きく変わり市場の変化に対応できなかった企業は消え去るのみなのです。トヨタ自動車はハイブリッド車への対応を早くから進めたため、世界的な支持のもと健闘しています。世界を見回してもトヨタのハイブリッド車に勝る、技術を持った車は見当たりません。進化論で有名なダーウィンの言葉に「強いものが生き残るとは限らない。賢いものが生き残るとは限らない。変化するものだけが生き残る。」とあります。まさに現代は恐竜が絶滅した時代にたとえられます。生き残るためには、変化したものだけという厳しい条件がつきます。トヨタのようにです。

理想的な成長を遂げている企業があります。健康機器メーカーのタニタです。タニタは元々は体重計を造っていました。中国製などの低価格志向に危機感をいだいていたある時、体重計で計量している人の「ある事」に気が付きました。「計っているのは体重ではない。健康だ。」との発想の転換です。タニタは、すぐに体脂肪計を発売しました。健康に関係するのは体重ではなく体脂肪ですと訴えたのです。当時は体重計しかなく50~100万台と言われていた市場は膨らみ、市場規模は一気に3~4倍になりました。社内では食事・運動・医療の面から減量指導をするように社員食堂のメニューを考えました。このメニューが話題となり、献立をまとめたレシピ本がミリオンセラーとなりました。読者からは社員食堂のメニューを再現して食べられる場所を提供してほしいという要望が多く寄せられましたので「丸の内タニタ食堂」をオープンしました。人気は高く、食べられない人も出てきましたので、3月には「タニタ弁当」を発売します。その後、全国に年間20店舗の展開が可能とみています。これから開店する食堂には体組成計を置いて栄養士が無料で健康相談に応じるコーナーも設けて、健康産業全体、また他社の社員食堂への展開も視野に入れているようです。

変化するものだけが生き残る。しかし、他の業種へ新しく進出することは大きなリスクが伴います。過去の教訓からも倒産する企業の多くは他業種への進出あるいは過大設備投資がほとんどです。タニタのように業務の中味を変えて変化していくことが理想ではないでしょうか。元掛川市長・榛村純一氏の提唱する「茶業振興5路線」①和産・和消・和食路線②文化・美学・癒やし路線③機能・効能・長寿路線④食育・撫育・徳育路線⑤エコ・倫理・愛郷路線は茶業界が変化するためのキーワードと期待されます。