深蒸し茶

2012年10月 茶況_No.282

平成24年10月27日

茶園では、病虫害の発生に注意しながら秋整枝など茶園の管理を進める茶農家の姿が見られます。終了した秋冬番茶の取引状況は、前年に比べて生産量は10%減、平均単価は10%高に落ち着きそうです。夏の干ばつなどの影響で、当初は大幅な減産が予想されましたが、相場は最後まで強気配で、価格の下げ幅も少なかったために生産意欲が高まり、最終5~10%減産で終了したようです。ドリンク関連業者の中には、数量が集まらずに、買い足りなかったところもあったようです。

産地問屋は仕上と発送作業に努め、年末商戦を視野に販売戦略を練っています。また、消費地と情報交換を進めながら、新しい提案、新しい企画を持って販路開拓に懸命です。総務省の家計調査によりますと、家庭での緑茶消費は低迷が続いています。1~8月までの購入数量は前年比9%減の580gと過去最低だった09年の622gを下回っています。年齢別の購入数量は60年代が1342gだったのに対し、30代は233gとなるなど、緑茶の消費は高齢世帯に支えられ、若者への浸透が課題として浮彫りとなりました。

消費地では「秋の売り出し」も終わり「年末商戦」の準備に入りました。ギフト商品の選択・販促計画を練りながら、きめ細かい対応を検討しています。朝夕は急に寒さがまし、販促にも力が入ります。取り巻く環境は大きく変化していますが、顧客に支持されるお店を目指して、新たな差別化策を打ち出しているお店もあります。

 

第48回静岡茶品評会 入札結果

部  門 出 品 点 数 落札率 落札単価
鶴 印  4000円

(4500円)

83点(84点) 55%(18%) 4523円(4812円)
亀 印 2000円 60点(67点) 68%(52%) 2390円(2305円)

( )内は昨年の数字

 

「鶴亀品評会」の名で親しまれる第48回静岡茶品評会(県茶商組合主催)の入札販売会が静岡茶市場で開催されました。入札参加社は昨年より3社多い、95社と活況でした。トータルの落札率は前年比28ポイント増の61%、売上総額は前年の1.9倍の2948万円(昨年1543万円)となり、順調な商い結果となりました。鶴印の標準価格が前年に比べて500円安く設定されたにもかかわらず売上総額が前年を大幅に上回り倍増しました。県茶商の役員は「良質な静岡茶の出品が多く、秋以降の販売が良い方向に向かう見込みから、各商社ともに仕入に意欲的な姿勢が目立った」と話していました。この入札会は、これからの相場の動きを予想するうえでも、たいへん注目されていますが、久しぶりの明るいニュースに、これからの荷動きが期待されます。

 

個性   こだわり   専門性

 

お店間競争が激化する今日「選ばれるお店」になるためには、自らの「強み」を的確に把握して、それを徹底的に伸ばしていく必要がある。「弱みを改善しても平均的なお店になるだけで、選ばれるお店にはならない。さて、消費者は小売店の「強み」をどのように認識しているのだろうか。小売店の強みは□である。の空欄に消費者はどのような言葉を入れるだろうか。①個性(22%)②サービス(7%)③独自性(6%)④小回り(5%)⑤専門性(4%)⑥こだわり(3%)⑦親しみやすさ ⑧融通 ⑨地域密着 ⑩接客という答えだ。ちなみに大型店の強みは□である。の質問の答えは①品揃え ②豊富 ③安さ ④価格⑤多い の順である。ここで注目すべきは、小売店の強みとしてあげられた単語と大型店の強みとして出て来た単語が全く異なるということだ。ひとつとして同じ言葉はない。小売店には小売店の強みがあり、大型店には大型店の強みがある。そう、小売店は決して「大型店と競争をしよう」などと考えてはいけない。小売店が考えるべきは、いかに大型店と「土俵を変えるか」である。先に示した①個性 ~ ⑩接客を、ひたすらに実行することがキーワードとなる。

それでは、小売店のターゲットとなる「小売店にひかれる人々」はどのくらい存在するのであろうか。全国1000人の消費者調査では大型店にひかれる人18%、中小規模店にひかれる人30%、どちらともいえない52%との回答である。とはいえ、中小規模店にひかれる人は「意識」であり「行動」をとらえたものではない。それでは、どの程度の人が実際の買い物行動に中小規模店を利用しているのだろうか。「中小規模店にひかれる人」のうち、実際に中小規模店を利用している人の割合は衣料品店で42%、生活用品で57%、食料品で65%にとどまっている。すなわち、中小規模店を利用したいという消費者「意識」と実際の消費者「行動」の間には大きなギャップが存在している。なぜ、このようなギャップが存在するのだろうか。その大きな理由としては、実際の小売店が「中小規模店にひかれる人」の期待に応えきれていないということが考えられる。それでは「中小規模店にひかれる人」はどのような特性をもつのだろうか。ターゲットの特性がわかれば、その人々に対してどのようなアプローチをすればよいかがわかるはずである。消費者調査のデータから「中小規模店にひかれる人」の特性は以下のとおりだ。特性①本物志向が強い(個性・こだわり・専門性を重視する消費者層である。)特性②人的コミュニケーション志向が強い(店員からのアドバイス・店員とのコミュニケーション・店員の親しみやすさ)を重視する消費者層である。

特性③関係性志向が強い(買い物はここと決めているお店が多い、気に入ったお店はできるだけ長く使い続けたいと考え、リピーターになってくれる消費者層である。)特性④地元志向が強い(地元で買い物したいと考えている消費者層である。)特性⑤低価格志向ではない(価格の安さ、バーゲンセールを重視しない価値重視の消費者層である。)

さて、ここまでで「中小規模店にひかれる人」の特性を抽出できた。このような特性をもつ消費者の期待に応えるために要求される力は大きく3つに集約することができる。第1は「ほんものの力」本物志向と非価格志向に対応する力。第2は「きずな力」関係性志向と地元志向に対応する力。第三3は「コミュニケーション力」人的コミュニケーション志向に対応する力。「ほんもの・きずな・コミュニケーション」という3つの力が柱になるということだ。

消費者の期待に応えるために要求される3つの力「ほんもの・きずな・コミュニケーション」について。では、どうすれば「ほんもの力」を強化することができるのか。「ほんもの力」とは「個性・こだわり・専門性」から生み出される力であるが、現実の小売店をみるとこれらに課題を抱えるケースがとても多い。「個性ある商品が少ない」「品揃えが画一的な感じで面白みがない」「店の特徴、考え方が感じられない店が多い」「ここにしかないというこだわりの品を置いてほしい」「もっと店の色を出してほしい」、このように小売店の強みであるはずの「個性・こだわり・専門性」を生かせていないお店が多い。それどころか消費者の不満要因にもなっている。

東海道新幹線「駅弁ランキング」をみてみよう。第1位は小田原駅の「特選小鯵押寿司」。中身は鯵の押寿司だけ。第2位は名古屋の「びっくりみそかつ」。こちらは「大きなみそかつ」ひとつで勝負だ。私の地元静岡駅では弁当の中に「お茶・ワサビ・桜海老・黒はんぺん・いちご」など静岡の特産品を使った料理が、これでもかと入っている。とても美味しそうだ。では、静岡駅弁の順位はどうだったか。結果は残念ながらランク外。順位がついていない。「いろいろ入っています」で、この種のランキングの上位に入ることはまずない。この話は、まさに小売店にもあてはまることだろう。消費者は小売店に「いろいろあること(総合性)」を求めてはいない。総合性では、大型店が圧倒的に有利だ。小売店が総合性を追及すれば、本来売りにすべき「個性」や「専門性」が薄まってしまう。ところが現実はどうだろう。「色々あります」に陥ってしまうお店は数多い。業績不振を打開しようと、少しでも売り上げに貢献しそうな商品の取り扱いを増やした結果である。「総合化のワナ」に陥った企業に必要なのは「引き算」する勇気だ。小売店はダイエット(商品の絞り込み)で病気になることはない。食べ過ぎ(あれもこれも売る)で病気になる。何を売り、何を売らないかを明確にすることが大切だ。直観的には品揃えを減らすと売り上げも減ってしまうように思うが現実は逆だ。品揃えの「引き算」によって売り上げは「足し算」になりうる。小売店のマーケティング戦略の「略」は省略の略だ。小規模を強みに変えるためには、そぎ落とすことが大切なのである。商品を絞り込むことによって、残った商品はより研ぎ澄まされる。こだわりが凝縮され、より本物に近づく。それだけではない。取扱商品を絞ることによって経営資源に余裕が生まれ、残った商品の魅力が高まる。

小売店は数ある商品にフィルターを掛けて絞り込む「目利き力」を高め、消費者に代わってプロの目と感性で商品を選択し、コーディネートを行う、消費者の「買い物代理人」としての役割がますます求められる。そして、小売店が「ほんものの力」を高めるには想定ターゲットを絞り込むことが有効だ。ホースで水を撒くシーンを想像してほしい。ホースの先を絞れば絞るほど水の勢いは強くなる。これと同じようにターゲットの絞り込みが店の主張を明確にし、鋭く鮮明な個性の発信を可能にするとともに、商品政策に一貫性をもたせる。ターゲットを絞れば絞るほど、お店から明快で鮮明な個性が発信されるため、顧客満足度が高まる。逆に多くの人をひきつけようとすればするほど顧客満足度は低下する。大型店はターゲットの絞り込みは困難である。ターゲットの絞り込みを競争優位の武器にできるのは大型店ではなく小売店なのである。ここまでの議論から「絞る」という言葉が小売店の「ほんものの力」を強化するためのキーワードとして浮びあがってくる。「絞る」のは次の3つだ。

以下次号に続く。

 

「小が大を超えるマーケティングの法則」 岩崎邦彦著 より抜粋

 

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