深蒸し茶

2012年10月 茶況_No.281

平成24年10月9日

秋冬番茶の摘採が終了した茶園では、秋の茶園管理を進めています。これで今年のお茶の生産はすべて終了しますので、指導機関では茶園管理の徹底を呼び掛けています。8月の少雨と干ばつが影響して、秋冬番茶の生産量は減産予想です。価格は減産予想と原油高による製造コスト上昇もあって昨年よりは10~15%高の強気配で終了しました。秋冬番茶の需要はドリンク原料・ほうじ茶原料・外食向けなどに限られていますので買い手の顔触れも決まっていますが、必要量がハンパな数量ではないので、大手は数量確保に動きました。今年は減産ということもあって、供給薄の状態が最後まで続き、価格の下げも数日間で5~15円と小幅にとどまりました。二番茶や秋冬番茶など下物は需要が供給を上回る状況が続きますが、肝心の一番茶が振るわない状況は憂慮する事態です。急須で淹れて、おいしいお茶を飲むための対策が急務です。

産地問屋は仕上と発送作業に努めながら、新企画・新提案を持って取引先との情報交換を進めています。既存の販売ルートに加え、既存市場の見直し、新市場・新販売ルートの開拓など販路の拡大に努め、年々の縮小傾向から脱却するのに懸命です。静岡県内には輸出産業や海外進出企業が数多くあります。円高と欧州経済の混乱に加え、最近では中国・韓国との関係も外交問題できしみが生じており、お店や工場が壊されたり、日本製品の不買運動により苦境に立たされています。国内では大手企業のリストラが始まるなど雇用と所得環境に改善の兆しは見られません。国内外の政治経済情勢に対する慢性的な不安感に加えて、電気料金の値上げや消費増税など、消費者の購買意欲を大きく冷え込ませる要因が多く、景気回復にはほど遠い感じがします。茶業界に限らず、消耗線の様相です。

消費地では秋の需要期に入り、秋商戦を進めながら、年末に向けての中期的な販促計画を練っています。金融円滑化法の期限切れになる来年3月に向け、景況感はますます後退し、加えて個人消費が悪化に転じていますので、会話も暗い話になりがちです。そんな中で、コンビニの好調は続いているようです。コンビニ各社の中間決算によると、過去最高益が次々と発表されています。東日本大震災の被災地での復旧の早さから「社会インフラ」としての認知度を上げたことも一因です。近年、力を入れてきた自主企画の総菜類を増やしたことで、高齢者や若い女性など幅広い層に支持を広げ、スーパーから客足を奪っています。一方、コンビニに押されスーパーは苦しんでいます。そこでスーパーはコンビニを意識した対抗策を次々に打ち出しました。ダイエーは1700品目の値下げを実施、イオンは開店時間を午前7時に早め「利便性」で負けまいとしています。小売店の顧客がスーパーに奪われ、スーパーはコンビニに顧客を奪われている構図です。流通も自ら変化して、消費者ニーズに応えられたところは、厳しい時代でも成長しています。

静岡県立大学の岩崎先生も著書の中で、小売店がまだまだ顧客の期待に応えきれていないと指摘しています。お店の個性や独自性、専門性やこだわり、親しみやすさ地域密着など、取り組まなければいけない課題は、まだまだたくさんあります。政治が不安定で世間にネガティブな材料が多すぎることにより、不安要因に引っ張られて消費者心理が冷え込んでいることは事実ですが、前向きな気持ちで取り組み、改善していく必要があります。

 

「なぜ、なぜ」という問いを繰り返し、選ばれるお店になる

 

今、日本経済は変革期を迎えている。「大きいことは、いいことだ」というCMのキャッチコピーが流行ったのが1960年の終わりごろ。高度成長の時代だ。この時代からバブル崩壊前ぐらいまでは「大きいことは、いいことだ」の時代であったかもしれない。当時の小売業の王様は巨大な店舗面積を誇る百貨店であり、大型店を全国にチェーン展開する総合量販店であった。だが、かつて栄華を誇った百貨店や総合量販店などの大規模小売業の不振などからも示唆されるように今、規模の大きさは「強さ」を意味しない時代が来ている。逆に経済の成熟化、需要の多様化、人口減少、少子高齢化、環境問題といった時代のトレンドは「小さいことは、いいことだ」の時代でもある。

企業間競争が激化する今日、企業にとっては「新しい顧客を創造する活動」だけでなく「既存の顧客を維持する活動」の重要性も高まっている。顧客に一度買ってもらったら終わりではなく、その顧客に二度三度、その後もずっと買い続けてもらうことが大切になっているのです。つまり、一言でいうと「顧客を創造し、維持するための活動」が現代のマーケティングといえます。

あらゆる企業では、商品の販売が不振になると何とか今ある商品を売り込もうという売り手の発想に陥ってしまう、「売りたい気持ち」が先行してしまうのである。「商品が売れない。だから、何とかして商品を売り込もう」。実は、これは販売の発想である。「どうすれば商品を顧客に売ることができるのか」と考えるのではなく「どうすれば顧客が商品を買いたくなるのか」を考えることが大切なのである。では、消費者の買いたい気持ちを喚起するためには、どうすればよいのだろうか。そのためには、「何を」売るのではなく「なぜ」買うのかに着目することが重要である。消費者の関心があるのは、商品そのものではない。関心があるのは、その商品が自分にとってどのような価値があるのか、どのような便益をもたらしてくれるのかだからだ。「なぜ、なぜ」という問いを繰り返すことによって顧客の目線で商品や「価値」を把握できたら、あとはそれを磨きあげ徹底的に伸ばしていくのである。

雪が溶けると□になる。この文の空欄に、あなただったらどのような言葉を入れるだろうか。もっとも多かったのは「水」と入れた人で全体の64%にのぼる。次に多かったのは「春」で全体の25%、「川・その他」で11%である。「雪が溶けると水になる」と答えた人は論理的思考が優れている人である。「雪が溶けると春になる」と答えた人は感性が優れているタイプである。この質問を取り上げたのはマーケティングに成功するためには「水の発想」(論理的思考)と「春の発想」(感性)のバランスが大切だからである。リサーチ力、市場データや経営データの分析力や商品の機能を訴求すること、顧客の理性に訴えることも欠かせないだろう。ただそれだけではマーケティングはうまくいかない。顧客をひきつけるためには、デザイン・ネーミング・パッケージ・キャッチコピー・BGMなどで顧客の感性に訴えていくことや、経験から生み出される直感的なひらめきなどもマーケティングには欠かせない。会社で、ほぼ全員が「水」と答える企業は、もしかすると将来が危ないかもしれない。ほぼ全員が「春」と答える企業もおめでた過ぎるだろう。「水」と「春」のバランスが取れている会社が理想的なのである。

 

お店間競争が激化する今日「選ばれるお店」になるためには、自らの「強み」を的確に把握して、それを徹底的に伸ばしていく必要がある。弱みを改善しても平均的なお店になるだけで、選ばれるお店にはならない。さて、消費者は小売店の「強み」をどのように認識しているのだろうか。小売店の強みは□である。の空欄に消費者はどのような言葉を入れるだろうか。①個性(22%)②サービス(7%)③独自性(6%)④小回り(5%)⑤専門性(4%)⑥こだわり(3%)⑦親しみやすさ⑧融通⑨地域密着⑩接客という答えだ。ちなみに大型店の強みは□である。の質問の答えは①品揃え②豊富③安さ④価格⑤多いの順である。ここで注目すべきは、小売店の強みとしてあげられた単語と大型店の強みとして出てきた単語が全く異なるということだ。ひとつとして同じ言葉はない。小売店には小売店の強みがあり、大型店には大型店の強みがある。そう、小売店は決して「大型店と競争をしょう」など考えてはいけない。小売店が考えるべきは、いかに大型店と「土俵を変えるか」である。先に示した①個性~⑩接客を、ひたすら実施することがキーワードとなる。

それでは、小売店のターゲットとなる「小売店にひかれる人々」はどのくらい存在するのであろうか。全国1000人の消費者調査では大型店にひかれる人18%、中小規模店にひかれる人30%、どちらともいえない52%との回答である。とはいえ中小規模店にひかれる人は「意識」であり「行動」をとらえたものではない。それでは、どの程度の人が実際の買い物行動に中小規模店を利用しているのだろうか。「中小規模店にひかれる人」のうち、実際に中小規模店を利用している人の割合は衣料品で42%、生活用品で57%、食料品で65%にとどまっている。すなわち、中小規模店を利用したいという消費者「意識」と実際の消費者「行動」の間には大きなギャップが存在している。なぜ、このようなギャップが存在するのだろうか。その大きな理由としては、実際の小売店が「中小規模な店にひかれる人」の期待に応えきれていないということが考えられる。それでは「中小規模店にひかれる人」はどのような特性をもつのだろうか。ターゲットの特性がわかれば、その人々に対してどのようなアプローチをすればよいかがわかるはずである。消費者調査のデータから「中小規模店にひかれる人」の特性は以下のとおりだ。特性① 本物志向が強い(個性・こだわり・専門性を重視する消費者層である。)特性② 人的コミュニケーション志向が強い(店員からのアドバイス・店員とのコミュニケーション・店員の親しみやすさを重視する消費者層である。)特性③ 関係性志向が強い(買い物はここと決めているお店が多い・気に入った店はできるだけ長く使い続けたいと考え、リピーターになってくれる消費者層である。)特性④ 地元志向が強い(地元で買い物をしたいと考えている消費者層である。)特性⑤ 低価格志向ではない(価格の安さ、バーゲンセールを重視しない価値重視の消費者層である。)

さて、ここまでで「中小規模店にひかれる人」の特性を抽出できた。このような特性をもつ消費者の期待に応えるために要求される力は大きく3つに集約することができる。第一は「ほんものの力」本物志向と非価格志向に対応する力。第二は「きずな力」関係性志向と地元志向に対応する力。第三は「コミュニケーション力」人的コミュニケーション志向に対する力。「ほんもの・きずな・コミュニケーション」という3つの力が柱になるということだ。

以下次号に続く

「小が大を超えるマーケティングの法則」 岩崎邦彦著 より抜粋

 

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