深蒸し茶

2011年8月 茶況_No.270

平成23年8月23日

茶園では日中の炎天下を避けて朝夕を中心に、施肥や防除などの茶園管理が進められています。肥料をまき始める前の段階で土壌改良剤を散布している茶農家もあります。暑い日が続きますので指導機関は灌水を呼び掛け、暑さ対策を万全に体調を崩さないように注意を呼び掛けています。昨日の雨は乾いた茶園に恵みの雨となり、茶園も久し振りに潤いを取り戻しました。

県茶業青年団がまとめた本年度の二番茶仕入れ状況調査によりますと、仕入量は前年比1%減、仕入金額は3%増と発表されました。平均単価は二番茶の繰越在庫が少ないことから上昇が予想されましたが、放射性物質問題で買い手が慎重になり前年並みに落ち着きました。また、総務省の家計調査によりますと家庭での緑茶の消費動向は1~6月は前年並と発表されましたが、7~8月は例年と比べて2~3割減の状態が続いているようです。原発事故がお茶の消費にも影響して、関係者は対策会議を重ね、検査料も重み精神的に参っています。

産地問屋は情報交換を進めながら、消費者にアピールできる個性ある商品開発を模索しています。今年の夏は「水出し煎茶」は例年以上の売れ行きでしたが、贈答品関連の不振から、小売店への販売が激減していますので製造の計画が立たないほどの影響を受けています。特に輸出関係への影響は大きく、商談も途中でストップしたり、要求される検査証等の多数の書類添付で、今までになかった経費も重くのし掛かります。また、7・8月の売行きは2~3割減と今までに経験したことのない売上減ですので、その分の入金が減ることにより、すでに仕入済原料の支払状況も厳しくなりますし、売上不振による在庫増の負担も重くのしかかりますので、二重苦・三重苦の厳しい状況が続きます。例年、夏期は販売金額が少ないことから売上減といっても危機感は希薄ですが、暮の歳暮商戦までこの状態が続きますと、大変な事態になります。

消費地では店頭で冷茶による接茶を続けながら厳しい商戦を勝ち抜くために、前向きな販売姿勢で日々努力しています。そして、秋口からの商戦の準備を進めていますが、放射能問題と厳しい暑さにより2~3割売上減の厳しい状況が続いています。お茶の安全性をあらためてPRするなどの対策と、秋からの新商品投入、新企画で挽回を図ります。同時に「歳暮商戦」の販売計画も練っていますが、冬のボーナスは厳しいと予想され、消費低迷のトンネルを抜ける策が見出せない現状です。消費は先行きの不安からお金を使うのに慎重になっていますので、常に顧客満足を考え、お客さまの要望を見失わないようにすることが必須条件です。

もし、去年も今年も、昨日も今日も同じことを繰り返していたら、明日のお店のために何もせずに、今日の延長線上で仕事を続けていたとしたらお店は必ず滅びる。逆にお客さまのために今日何をして、明日のお客さまをどうお迎えするかを考える。とは倉本長治の商売十訓です。顧客の創造を常に考え、真摯に実践しているお店があります。

 

MADE BY JAPANESE

 

東日本大震災による津波は東北地方の農地2万ヘクタールをのみ込み1兆円の被害をもたらしました。放射能問題は牛肉から秋収穫される農産物、海産物にまで広がり収拾のつかない状況です。賠償範囲を決める審査会の中間指針が示され、10月中の支払い開始を目指すとしていますが、交渉が決裂した場合には、審査会が和解仲介に入るようになります。

米国では政府の債務不履行による金融の混乱は寸前で回避しましたが、景気減速から景気後退への懸念が残りました。欧州ではギリシャとイタリアが財政赤字に苦しみ欧州金融不安へとつながり、当面は困難な状況が続くことになりそうです。世界経済は戦後、日本やドイツが成長しましたが、近年は中国などの新興国が台頭しています。米国債は格下げされ、ドル・ユーロの価値も下がり続けています。投資家はドルを売り、円を買うために円高が進み世界経済の先行き懸念から世界同時株安になったり、株価は乱高下しています。世界経済の不確実性が増している状況での激しい円高と株安、長期化する電力不足は日本企業の生産シフトが進み、海外進出が加速します。経営環境が厳しさを増す中、大企業は円高・電力不足・高い税金・自由貿易協定への対応の遅れ、製造業への派遣禁止などの労働規制、CO₂の25%削減の「六重苦」にあえいでいるわけですが、基盤強化策として外国に工場を移すようになります。現在、勝ち組といわれている企業は、ほとんどが多国籍企業であり、そうした企業の市場は全世界です。親会社が進出すれば下請け企業も当然、一緒に出て行かざるをえないのが現状です。そのため国内産業の空洞化はますます進み国内景気がさらに落ち込む恐れがあります。

これまでの日本は国内で生産した製品や農産物を国内で販売して消費する、なおかつ海外に輸出するという「MADE IN JAPAN」という戦略で経済大国の地位を築いてきました。日本で製造された製品なら故障しなくて間違いないという信用を築いたのです。日本で生産された農産物は高くても安全・安心だということで台湾・香港・中国・タイ・インドなどのアジアの富裕層には絶大なる信頼がありました。経済成長で相手国の購買力が上がるほど急速に輸出が伸びていたところ、福島の原発事故が壊滅的な影響を与えました。「MADE IN JAPAN」は、付加価値で勝負してきたのですが、放射能問題により、勝負できなくなったのです。そして、日本産への信頼が揺らぎました。いくら口で「安全・安心」と言っても、基準値以内であっても数値が出ている以上は逆効果になりかねません。従来通りのやり方では競争に勝てない農業になってしまいました。そこで、生産は土地と人件費の安い外国で作っているけれでも企画とか生産工程・品質管理は日本の農業者の手によって行われている。この商品は信頼のブランドのニッポンが責任を持って製造し、そして世界に届けていると明確にする戦略はどうでしょうか。

「MADE IN JAPAN」から「MADE BY JAPANESE」戦略も一考の価値があります。すでに工業製品・衣料品等はその地位を確立しています。生産地は中国・インド・タイでも信頼のブランド・トヨタがソニーがユニクロが責任を持って製造して世界に届けて信頼を築いているのです。日本経済は百年に一度の世界不況と千年に一度の震災からの再生・発展を目指していますが、そのためには農業も新生産方式の導入も必要なのかもしれません。

あきらめずへこたれず、魚になるまで水かきがつくまで泳ぐこと。フジヤマのトビウオ古橋広乃進。