深蒸し茶

2014年10月 茶況_No.303

平成26年10月10日

茶農家は台風18号の被害状況を確認しながら茶園巡回をしています。幼木園の茶の木が風で傾いたり、急斜面の茶畑に一部崩落した場所もありますが、大きな被害は報告されていません。秋冬番茶の生産期ですが、台風18号の雨を区切りに、ほとんどの工場が生産を終了しました。生産量は例年より少なくなる見通しです。秋冬番茶を必要としない茶問屋が大半ですので、全体の買い気は弱く低調な相場展開となりました。秋冬番茶を大量に必要とするのは大手のドリンク関連業者に限られます。相場は昨年より若干安の荒茶340円~300円での取引となりました。円安による重油・電気・資材高など生産コストは高止まりしていますので生産者には厳しい状況が続きます。県が最近実施したアンケート調査でも「操業継続が困難」と回答した茶工場が多数見られるなど厳しい実態も浮き彫りになりました。川勝県知事も茶価低迷により経営に苦しむ共同茶工場の効率的な荒茶生産に向けての再編、統合を支援する方針を明らかにしています。そして静岡県は将来にわたり荒茶生産の維持発展を前向きに図ることを明言しています。その一環として県主催の農業経営の知識を学ぶ「アグリトップマネジメント講座」が開講しました。第一回の講師を務めた農業経営コンサルタントは、まず農業経営者の心構えを説き、農業を取り巻く環境ついて説明しました。 1.農業の担い手の減少と世界の食料不足と円安により5年後までに国内農業の収益環境は好転する 2.国が推進する6次産業化や大規模化は自分の目が届く「適正規模」が重要 3.信頼できるパートナーと手を組む必要がある 4.農産物販売のキーワードは「安全・健康」であり県特産の緑茶も消費拡大の余地が十分にある。と解説しました。

産地問屋は消費地との情報交換を進めながら営業と新市場の開拓に努めています。朝晩の気温が急に下がり始め、出荷も前年比増と順調に推移していますので、これからより一層のリーフ茶の需要増に期待します。産地間の取引は出物以外みられず静かですが、これから各地区で品評会の入札会が開催されます。その入札結果は今後の茶況を予想する判断材料として注目されます。

消費地では「秋の売出し」「蔵出しセール」を実施して歳暮商戦に向けて動き出しました。店頭で呈茶しながら会話と販売努力を怠りません。8・9月は天候不順が主な要因ですが、消費増税の反動減もあって足踏み状態が続きましたが10月に入ってからは持ち直しつつあります。「税抜き」か「税込み」かで小売業界を悩ませた価格表示問題。街角景気に足踏み感が出始めたこともあり「税込み」の総額表示に戻すところも出始めました。レジ前で戸惑う消費者が多く、「税込み」の方が分かりやすいとの理由からです。仮に総額表示に戻せば再び1年後の増税時に値札の変更やレジシステムの再設定が必要となりコスト増が発生します。価格表示問題が再浮上し、小売業界を悩ませ続ける可能性があります。

 

工場老朽化に伴い新工場を建設中です。10月末に1期工事終了。2015年2月末に2期工場が完了します。新工場はクリーンルーム化されより清潔で安心・安全なお茶を提供できるラインが整いますので、今後ともいっそうのお引き立ての程お願い申し上げます。

 

 

まずは従業員の幸せ Ⅰ

2010年に経営破綻した日本航空(JAL)を3年で再生し再上場を果たした稲盛和夫氏(82)の経営哲学を学ぶ経営者が増えています。若手経営者を育成する「盛和塾」には約9千人の塾生が学んでいますが、中でも急増しているのが中国の塾生で、塾生数は1500人に上り、稲盛フィーバーは勢いを増すばかりです。どうしてそこまで稲盛哲学を学ぶのかと問うと「なぜ日本企業が稲盛哲学をもっと取り込もうとしないのか、そっちのほうが、よく分からない」と答えます。稲盛哲学は心をベースとして経営することを求め、その判断基準は「人間として何が正しいか」です。中国の塾生が口をそろえて言うのが、その分かりやすさです。企業間競争が激化、勝ち残るために何をすればいいのかと悩みを深めている中国の経営者にとって中国の古典は難解だが「正しいことをしなさい」と説く稲盛哲学は平易であり、中国の伝統的な思想と共通点が多く共感しやすいと感じているようです。中国の盛和塾の大会では、「稲迷(稲盛ファン)」と書かれたプラカードが至る所で揺れ、スタッフユニホームには稲盛氏の好きな「敬天愛人」の言葉が書かれています。壇上の両そでには「唐の時代には鑑真が東に渡り、日本に漢文を伝えた」。「今日は稲盛が西に飛び、中国に哲学を授ける」と、漢文の巨大垂れ幕が掛けられ、稲盛氏の話が始まると稲盛哲学を吸収しようと会場は静まり返り、その話に真剣に聞き入ります。「経営とは一体何なのか。そして経営者は何をすべきなのか」中国の経営者の喉元に稲盛氏が問いを突き付けるのです。

「JALの再建を前原国土交通相から頼まれた時は、JALの再建に大義があるかどうかをまず考えました。もしJALが二次破綻したら日本の景気に悪い影響を及ぼす。3万2千人が職を失う。JALと全日空の2社が健全な競争をすることは利用者の国民に必要。景気、雇用、競争という三つの大義を感じて引き受けました。そして最初にこう言いました。『経営の目的は全従業員の物心両面の幸せの一点に絞ります。株主の為とかは一切ありません』弁護士、会計士、幹部の反応は『はあ?』というか『何を言ってるんだろう』という感じでした。『更生法の適用を申請した会社の目的が従業員の幸せですか???』という受け止め方でした。でも私は言いました。『従業員が幸せになればサービスも向上し業績も上がる。結果、株主価値も上がる。あらゆるところに跳ね返ってくる。余計なことを考えなくても、この一点に絞れば社員も一緒に努力してくれる』。そして各職場の壁には思想家・中村天風の言葉「新しい計画の成就は只不屈不撓(ふくつふとう)の一心にあり、さらばひたむきに只想え、気高く強く一筋に」を張り出しました。考え方を一生懸命説き、ひとつになった結果、3年足らずの短い間に再上場という成果につながったんです。企業運営を担い、日々生産活動をしているのは経営者を含めた全ての従業員です。全従業員が責任を果たし、才知を発揮して毎日それぞれの職場で業務に努めることで企業は長期的繁栄や発展が可能になるのです。この会社の社員で良かったと心から思えて初めて社員は全力で働ける。JALの再生が成功した最大の要因は社員の意識が劇的に変化したことでした」。その瞬間、誰もが顔を上げ、壇上の稲盛氏に盛大な拍手を送りました。

 「私が若いころからずっとかみしめてきた言葉があります。「謙虚にしておごらず、更に努力を」。人生というのは自分の心に描いた通りになります。自分の心の中に、こうありたいという強い思いをもってそれに向かって必要な努力をする。その繰り返しが人生を形づくっていくんです。誰でも、家族・先生・友人、色んなところで美しい心でアドバイスしてくれた人に出会っているはずです。それをどう受け止め、反応するかで人生は変わってきます。しみじみとそう思います」。

続 く

                稲盛和夫 転換期を語る より