深蒸し茶

2009年1月 茶況_No.246

平成21年1月26日

新しい年は幕を開けましたが、日本経済は暴風雨の真っ只中で視界不良の荒波の中への船出となりました。百貨店販売額や自動車販売台数が大幅に落ち込むなど高額商品を中心に消費の鈍化が鮮明になってきています。そのため値下げに走り、利益率を落とす悪循環に悩まされています。未曾有の不況を前に持ちこたえられないとの判断から、店舗改装計画を先送りして希望退職の募集に踏み切るなど、どの百貨店も縮小均衡に急いでいます。トヨタは販売不振で在庫が適正水準を大きく上回っているために、2009年の世界生産台数を20%減産と異例の設定を発表しました。世界同時不況で自動車も家電も衣料品も大きく落ち込んでいますが、モノのあふれる時代には多様な志向を持つ消費者の需要を掘り起こし続けない限り、メーカーも小売りも生き残りは厳しい状況が続きます。自動車、電気の減産は静岡県内に多い下請け企業を直撃して、従業員は3日出勤、4日休業などの大幅な減産体制に入った工場もあります。

本格的な寒さが続きますが、茶園は厳しい寒さに耐えながら新しい年を迎えました。防寒や保水のために畝間に施された敷き草は有機肥料にもなり大変効果を上げています。生産家は勉強と情報交換のために各種の研修会に出席しています。県が奨励する品種の「山の息吹」「つゆひかり」「香駿」「おくひかり」「さわみずか」を比較して品質評価を行なったり、「蒸し製法」と「釜炒り製法」の味と香りを判定してこれからの製造方法を探し、年々減り続けるリーフ茶の消費に歯止めを掛けようと必死です。

産地問屋は新年の挨拶回りで消費動向の情報収集に努めながら、研修会や荒茶交換会に出席しています。荒茶交換会では各問屋が在庫の多い荒茶を出品して不足している価格の荒茶を仕入れするのですが、動く価格帯は一番茶の中級茶と二番茶の下級茶・秋冬番茶、それに棒茶・粉茶の出物類が多いために、落札平均単価は千円台前半と非常に低価格になっています。ドリンク関連の原料を扱う茶商社の落札が多く、専門店向の上級茶の動きはほとんど見られませんので、今年の新茶の相場を心配する声も聞かれます。在庫の調整に努めていますが、不足感は聞かれず、過剰感のある価格帯は各問屋によってそれぞれ違うようです。

消費地では「お歳暮・お年賀」と大きな商戦を終え一服状態です。家計調査によりますと、一世帯あたりの緑茶購入量が4か月連続で伸びていると発表されました。景気悪化の影響から家で食事する「うちごもり」の消費者が増えたおかげで、緑茶の消費減も下げ止まったという喜ばしい話も出ています。

日銀は2009年を戦後最悪のマイナス成長と予想し、不動産を中心に増加してきた企業倒産は製造業などにも広がり不況の深刻化を覚悟していると発表しました。2008年の上場企業の倒産は33件と過去最高を記録し、利益を出していたにもかかわらず資金繰りに行き詰まって破たんした「黒字倒産」はこのうち19件を占めます。倒産した上場企業の社長は記者会見で「32年間黒字経営で納税もきちんとしてきたが、金融機関に資金調達の蛇口を閉められた」と悔しさをにじませていました。銀行も不良債権や株価下落による損失が拡大して体力が落ちているために融資に一段と慎重になるのは無理からぬことです。新規融資がむずかしくなれば資金決済が集中する年度末の3月に大きなヤマ場を迎えます。大不況の予感は金融当局の自信も失わせています。

 

好況よし、不況またよし

 

政府は1月の月例経済報告で「景気は急速に悪化している」と発表しました。企業の生産や輸出を中心に「景気はこれまでにない速さで落ち込んでいる」と分析。日本経済はつるべ落としの様相で、景気後退のペースは加速を続け、実体経済の悪化に歯止めが掛からないのが実状です。モノづくりで国を支えてきた企業の多くは生産や在庫、雇用調整を進め、生き残りに懸命です。生産が縮小すれば雇用の悪化につながり、収入の不安定は消費の縮小につながります。まさに負の連鎖の序章です。そして、消費の縮小は売り上げの低下につながり、価格競争はますます激化します。一方で、製品・販売・宣伝等における革新が生まれ、新業態の開発が急速に促進されるのもこうした不況のときというのは過去の例です。新業態の開発は中小企業にとって大きなチャンスでもあります。大企業の図体ではすぐには変われませんが、中小企業ならば明日からでも変化できます。いち早く新しい環境に対応すれば、大企業を出し抜いて大きな成果を手に入れることも可能なのは過去の例で証明済みです。

「好況よし、不況またよし」は経営の神様とうたわれた松下幸之助氏の言葉ですが、かつてない困難、かつてない不況からは、かつてない革新や新技術が生まれ、それがかつてない飛躍につながるとの教えです。作業工程の改善活動を進め、ありそうでなかった商品の開発や、既存の製品に改良を重ねて完成させたヒット商品とか販売方法は数知れずあります。最近は業者間の競争激化や個人消費の伸び悩みから、すぐに価格競争に陥りやすいのが常ですが、全茶連の調査では、茶専門店の個性、こだわり、専門性といった「本格性」が顧客満足度を高めていることが検証されています。専門店は「いかに安く売るのか」ではなく、「いかに安く売らずに済むか」を考えることが大切なようです。もちろん、単に価格が高いのは問題ですが、「なぜこの価格なのか」を伝え納得してもらう。それには品質判断の「手がかり」を提供・明示することは欠かせません。パッケージラベルネーミング商品ロゴキャッチコピーPOPパンフレット、そして店舗外装内装看板服装身だしなみ働き方ホームページなどの手がかりを消費者に伝達して、目に見えにくい情報を伝えて緑茶の価値を高めることが大切な要件です。商品開発に当たっては、特に下記のポイントを把握したらいかがでしょうか。

  • キャッチ(引き付けるもの)が欲しい。
  • 物語が欲しい。
  • 語る材料が欲しい。
  • 価格競争に巻き込まれない商品が欲しい。
  • 特長があって納得商品の開発。
  • 「あったらいいな」をつくりだす。

百年に一度といわれる危機のときだからこそ、わが身を振り返りお客様のために何ができるのか、何をなすべきなのかを再度見直して、新しいスタートの機会とチャンスにしたいものです。「好況よし、不況またよし」の気概を持って。

            《参考文献》岩崎邦彦著「緑茶のマーケティング」(社)農山漁村文化協