深蒸し茶

2008年10月 茶況_No.244

平成20年10月28日

秋冬番茶の摘採を終えた茶園では、茶農家の方が秋の管理作業に精を出している光景が見られます。11月に入ってから再整枝や防除などを進め越冬の準備に入ります。心配された秋冬番茶の単価も400円台前半で終了して比較的安定していました。食の安全と自給を願う消費者の要望に応えて原料を国内産に切り替えるメーカーが多く、ペットボトル用やほうじ茶原料に秋冬番茶の需要が広がっています。中小企業や農業者の経営が厳しさを増す中、農家とメーカーが食材を共同開発したりするなど、行政・地元金融機関も一体となった農商工連携の取り組みもみられます。掛川茶が「全国荒茶品評会・深蒸し煎茶の部」で4年連続10回目の産地賞を受賞しました。これを弾みに、関係者はいっそうの消費拡大を期待しています。

産地問屋は消費地との情報交換を進めながら、秋の需要期に向けた営業を強化しています。また、並行して冬商戦に向けた準備も進めています。各地区で品評会とそれに伴う入札会が開催されています。先日、県茶商組合主催の第44回静岡茶品評会(鶴亀品評会)の出品茶入札会が静岡茶市場で開かれました。1キロ当たり4,500円の鶴印84点と、2,000円の亀印69点が出品されました。入札率・落札単価がこれからの茶況を判断する上で大変参考になることから、県内業者はその結果に注目しています。今年の落札率と落札単価は下表のとおりです。

部   門 落 札 率 落 札 単 価
鶴 印(4,500円) 54%(60%) 4,756円(5,009円)
亀 印(2,000円) 71%(77%) 2,265円(2,291円)

                                                    ( )内は昨年の数字

 入札参加業者は県内93社に上り、売り上げ総合計金額は前年比16%減の3,025万円でした。落札率や平均単価は前年を下回りましたが、業界の厳しい情勢を考えればまずまずの結果だったとの声が会場で聞かれました。上級茶の伸び悩み、売れ行き不振から鶴印に人気がありませんでした。

消費地では「秋の売り出し」が始まりました。秋の気配の高まりから需要の拡大に期待しています。消費者が節約志向を強めることから売り上げの低迷は深刻で、百貨店・スーパー・大型専門店などは生き残りをかけた業界再編の動きを一気に加速しています。日経平均株価はバブル後最安値を更新して歴史的な経済危機になっています。今までは比較的景気動向に左右されなかった高額商品にも影響が出始めています。店頭での秋のセール開催と同時に「歳暮商戦」の販促計画も進めていくわけですが、顧客の変化に対応した独自の新商品の企画や、どのようにしたら顧客に「得した感」を感じてもらえるのか、企画を練って練って練り直して抜本的に営業手法を変える大きな転機を迎えているようです。お歳暮やクリスマス商戦を前にした株価の落ち込みと株価低迷の報道が続くことのアナウンス効果で、消費マインドがどこまで落ち込むのかを心配する声も聞かれます。日本の銀行は株式の保有が多いために株安から自己資本比率が低下して、中小企業向け融資の円滑化を欠く恐れが出ています。株価の急落と円の急騰という大嵐が日本経済を揺さぶっていますが、茶業界は「消費低迷」と「資金繰り」というダブルパンチに見舞われダウン寸前です。ダウンをしたら試合終了です。取り巻く経営環境は一層厳しさを増していますが、ここは懸命の踏ん張りが必要です。

 

論語とそろばん

 

日本を襲う円高と株安の連鎖はどこまで続くのでしょうか。米国発の金融危機「リーマンショック」が世界の株式市場を揺さぶり、「為替ショック」が日本の輸出企業を窮地に追い込んでいます。この1ヶ月で世界の経済情勢は急激に悪化して、円高の進行など想像を絶する変化から日本の輸出産業は軒並み儲けが吹き飛び、企業の業績は悪化の一途で今後の景気後退への懸念が高まっています。

そんな折、日本資本主義の父といわれる実業家・渋沢栄一に注目が集まり、その考え方を学ぼうとする機運が高まっています。日本初の保険会社「東京海上」や「第一国立銀行」、「東京ガス」、「サッポロビール」、「帝国ホテル」、「帝国劇場」など500に及ぶ会社を創立し、「東京商工会議所」や「一橋大学」など約600の非営利活動団体の設立にも関わりました。あまり知られていませんが、花と緑の街づくりを願って超高級住宅地「田園調布」を開発したのも渋沢栄一です。その手法を学ぼうと、現在でも全国からの見学者が絶えません。渋沢栄一の自宅は東京の八王子駅のそばにあり、晩年の力強い肉声が記録に残っています。「およそ国家が真正の隆治を希望するには、ぜひともその政治経済を道徳と一致せしめねばならぬ」と、経済人は法律を守り道徳を重んじなければならないことを伝えています。

わが国に資本主義の基盤を築いた彼は、「正しい道理の富でなければその富は永続することができない」と、終始一貫「論語とそろばん」というメッセージの重要性を伝え続けました。そろばんに長けていれば確かにお金儲けはできるかもしれません。でもそれだけでは富は長続きしません。一方、「論語」を読んでいても行動を起こさなければ何事も始まりません。どちらが重要というのではなく、両方とも必要なのです。

彼の創立した会社は、企業理念として「倫理と利益の両立」という彼の教えを受け継ぎ、ゆるぎない経営を今も続けています。「金がほしいと思うのはいつの時代も同じ。でも商売道をはずれたら世の中に罪悪しかつくらないんですよ」と、経済活動の根幹をなす原理原則を現社長は強調します。そしてそのDNAは次の世代へと引き継がれ、会社の理念・活動の指針となって生き続けます。最近の企業の不祥事をみていますと、右手にも左手にもそろばんを持ち、少しぐらい倫理観に欠けようが会社と自分の保身のために行動している経営者が少なからずいるようです。そんなとき渋沢栄一は、「経済人は法律を守り、道徳を重んじなければならない」と「論語とそろばん.」の大切さを教えています。

渋沢栄一は、次代の社会を豊かにするため、その言葉だけでなく自らもリスクをとり続けました。晩年の彼は民間の外交や社会事業に力を尽くし、飛行機のない時代に4回の渡米をしています。それらの活動の根幹にあったのは、彼の「富を永続させ社会をよりよいものにすることと、人生を心から楽しむ気持」にあったことを忘れてはいけないと思います。

江戸時代に同じことを説いた人がいます。「勤労」「分度」「推譲」の大切さを教え、困窮にあえぐ農民の救済をめざした二宮金次郎です。その教えを今に伝える「大日本報徳社」(掛川)の正門には、右に「道徳門」、左に「経済門」と刻まれており、「経済のない道徳は寝言である。しかし、道徳のない経済は犯罪である」と二宮尊徳の教えを伝えています。二宮尊徳の「道徳と経済」、渋沢栄一の「論語とそろばん」には、賢い経営手法も大事であるが道徳的な心を持たなければいけないという、言葉は違うけれども同じ教えが流れています。今度の金融危機はこれまでにないほど深刻です。企業業績の落ち込み、実体経済が失速している今こそ、原点に返って二人の教えをもう一度学ぶ必要がありそうです。